先日、A社長(老舗の東証1部上場会社)との会食における雑談。A社長曰く
「こうやって社長になってみると、やっぱり自分から退任時期を決めるのはむずかしいですよね」
「最初はしかるべき時期に…とは思ってましたが、周りを見回して後継者候補を具体的に選定しているうちに『この人たちが社長やるくらいなら俺がやったほうがマシ』と思っちゃいますもん」
「病気にでもなって足腰が立たなくなれば別ですが、やっぱり元気なうちはやめられませんよね(笑)」
私「じゃあ社外役員さんが『アンタ、もう感覚がずれてますからやめなはれ』って言って引退勧告したらどうですかね?」と質問したところ、
A社長曰く「ああ、それなら辞めます。そう言ってくれたらありがたい。強制的に辞めさせる制度、たとえば後継者計画を誰かが主導するとか、役員退任ルールを社外役員が中心になって作るとか、そういったものがあれば覚悟しますが、そうでもないかぎり、社長って実際になってみるとホント、人に譲りたくないですよ」
(ちなみに、その会社には顧問や相談役はいらっしゃいません)
ガバナンス・コードではCEOの選解任手続きの明確化や概要の開示が求められ、また後継者育成計画の策定なども要請されています。しかし実際には、社外取締役にとってはCEOに退任を要求するといったことはかなり勇気が必要です。
ただ、上記のA社長の話を聞きますと、社外取締役がズバリ退任要求をしたほうが社長さんの希望にも沿うのかもしれませんね。たとえ「バッサリ」とまではいかなくても、「社長、いまごろ『心変わり』しても、もう遅すぎまっせ」といえるような冷徹な手続きによって後継者育成計画を進めることが重要かと思います。権力が長く続くと弊害が生じるわけですが、人間は弱いものですからガバナンス・コードの運用にも工夫が必要です。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。