いまや電池といえば電気自動車と反射的にイメージする言葉ですが、新しい電池開発競争が佳境に入っています。多分、2025年には今の電池とはすっかり様相を変えていることでしょう。
現在の電池はリチウム電池が主流で、パナソニックがアメリカに持つギガファクトリーを通じてテスラ社に納入しているのが有名かと思います。しかし、世界一の車載電池メーカーは中国のCATLで同社の前身はTDKの電池部門から分離独立した会社で操業7年で世界一にたどり着いています。
中国の会社が一気に世界一になった背景は中国政府の電気自動車の後押しという点で実質的政府主導型であったことは否めないでしょう。では日本はなぜ、立ち遅れたのでしょうか?
一つの理由に、ハイブリッドからの脱却が遅れたのが大きく、トヨタがもたらした国内自動車産業でのマイナスの影響力は大きかったと思います。同社は近未来型自動車で覇権を握りたかったのですが、ガソリン車から電気自動車への過渡期を充足するハイブリッドに結果としてしがみついた感じがします。
そのトヨタがようやく重い腰を上げたのはアメリカでのHV車の魅力低下、カリフォルニアなどでエコカーとして認識されなくなったこと、VWのディーゼル問題を契機とした欧州での強力な電気自動車開発競争、水素自動車が経産省の煽りもあり、話題倒れになったことなどいろいろ考えられるでしょう。
そうはいっても電気自動車開発においてトヨタが出遅れているとは思えません。現時点では電池を制する者が電気自動車を制する構図になっているからです。その電池は数年前からリチウム電池に変わる電池のアイディアが数々に上がり、それぞれが血眼になって量産化に向け、競争を展開しています。
その最右翼にいるのが全個体電池で安全でエネルギー量が大きいためその量産化が実現すればリチウム電池工場がすっかり入れ替わるであろうとみられています。その実用化は2-3年のうちに始まるはずで、すでにサンプル出荷が始まっています。量産化が安定するのは個人的には2025年ごろになるのではないかとみています。
一方、ダイムラーベンツ社はアメリカのスタートアップ、シラ ナノテクノロジー社に10%出資し、新型電池の開発を進めると報じられています。これは既存電池の方式に改良を加えることで電池性能を大きく改善する仕組みで、リチウム電池の枠組みからは外れません。
ところが日経にもう一つ、注目したい記事があります。「『全樹脂電池』ついに量産へ、巨大市場を開拓 」とあります。この聞きなれない全樹脂電池は慶応大学の先生が推進し、東証一部上場の三洋化成工業と手を組んで量産化体制をするものです。
この全樹脂電池があまり認知されていないのは現在の電池の枠組みからかなり外れることで誰も手掛けなかった代物とのことです。ところが記事によると設備投資費用が十分の一から数十分の一に下がり、材料費も半額になるというメリットがあるそうで、新興電気自動車メーカーなどに取り込まれる可能性はありそうです。大手はすでに出資などを通じて関与している全個体電池の普及を急ぐことになるのではないでしょうか?
個人的にはこの全樹脂電池に興味があるのですが、手を組む三洋化成ではマーケティング力が足りないこと、慶応大学の先生の個人的アイディアの一本足打法は過去、日本の新興市場で浮かんでは消え、というパターンを再び繰り返すリスクはあります。
このブログで日系の企業は水平展開が下手、と何度も申し上げているのはこのあたりにあります。せっかくの技術ですからうまくいかしていただけるよう、声援を送りたいと思います。
2025年から30年にかけて世の中は圧倒的変化を迎えます。自動車は電気自動車が主流となり、自動運転になります。また量子コンピューターができ、AIには磨きがかかります。今とは全く違う世界が存在するときが来ます。電池はそんな一翼を担うドラマの一つとなりそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月17日の記事より転載させていただきました。