ようやく動き出した企業の通年採用化

金曜日の日経トップ記事は「経団連、通年採用に移行 新卒一括を見直し 大学と合意、日本型雇用転機に」とあります。新卒の就活について一定の影響力を持ってきた経団連ですが、今の中西宏明会長(元日立製作所社長、会長)が昨年10月、2021年以降卒業する新卒向け就職活動について一定の日程上の縛りがあったものは形骸化しているとし廃止すると発表、波紋を呼びました。

私は昨年10月21日付のブログで「就活のルールなき戦いに対して青田刈りのリスクが出てきていますが、これは学生が自分自身をよく見据えて安売りせず、じっくり勉学するぐらいの気持ちの切り替えをしてもらいたいところです。大学の4年間に一番大事なのは何をどれだけ経験したか、であります。バイトして、酒飲んで、クラブ活動に没頭というパタン化したライフではなく、自分だけのきらりと光る世界を見出してもらいたいのです。」と記させていただき、中西会長の判断を前向きに評価すると述べています。

4月8日定例記者会見 中西会長(経団連ホームページから)

4月8日定例記者会見 中西会長(経団連ホームページから)

その中西会長が今回、企業に通年採用を求め、4月一斉入社のしきたりを根本から見直す第二ステップに踏みだすことを発表しました。これは大学生に何を学んだか、そしてどんな成果を上げたかを明白にさせることを意味しています。つまり、大学生は3年までの成績ではないのだ、4年が終わり、卒論を書き、担当教授から合格をもらうことが卒業要件であることを明白にしたとも言えます。

私の周りの若い人に時たま「卒論は何がテーマでしたか?」と聞くと半分以上の人は「ゼミをとっていなかったので卒論はありませんでした」と返ってきます。口にこそ出さないのですが、「マジかよー」であります。大学とは何ぞや、と私ごときが勝手に申し上げるつもりはないのですが、1-2年の教養課程を経て3-4年で専門課程に没頭するというが普通のパタン。(もちろん、1-2年に専門課程の教科もあります。)その専門課程においてゼミをとらないで日本の大学システムで何を学び取るのか、といえばナッシングであります。

私は母校の評議員をしておりますが以前、その会議においてある方が「我が母校は駅伝などスポーツや芸能で随分著名になったが学業で著名になったことはあまりない。大学とはそもそも学問をするところなのにいったいどういう経営方針なのか」と発言、怒り心頭の委員の意見に思わず心の中でパチパチと手をたたきました。

第四次産業革命とも言われる現代は今までの企業人事政策を根本から変える時代になったと言えます。今までは金太郎あめのような社員をたくさん作ることで企業色に染まったクローン社員を作り出すことに一定の意味がありました。しかし、今後は同じ色づくりはAIやロボットがやる作業であり、社員はそれらを使う側になります。その際、個性と特徴、そして頭脳明晰で一定分野で強みがある人間が求められます。

警察ものの小説を読んでいると必ずといってよいほど各部署に「あいつなら絶対に信頼がおける」という登場人物が出てきます。結局、警察広しと言えども使える人間はある分野に圧倒する能力を持った人間だということでしょう。これは今後の企業活動でも全く同様であります。

今思えば私は大学4年まで取れるだけ授業をとっていたこともあり、Aの数という点ではさほど悪くない学業成績で終わったのですが、いまだかつてその成績を求められたことも聞かれたこともありません。幸いにして今は自分の会社を経営しいてますからそれが何らかの形で役に立っていますが、企業に20年も世話になった際、人事はなぜ、聞いてこなかったのか、今考えれば不思議なものであります。

通年採用とはいつでも企業にレジメを送れ、いつでも採用試験を受けさせてもらえるということです。これについて日経は大企業に何度でも就職できるチャンスとなり、中小企業には不利だ、と記されていますが、これは違うと思います。個人個人が様々な会社に勤めた結果、自分が大企業に向いているのか、中小企業で思いっきりいろいろな仕事をさせてもらうのがよいのか、必ず判断は分かれることでしょう。

以前にも申し上げましたが大学生の就職活動とはブランド選び以外の何物でもありません。人気企業ランキングとCMの露出度には相関関係があるはずで(誰か、調査してもらいたいものですね)、BtoBの企業や中小企業はどうしても不人気になります。しかし、通年採用になれば誰に自慢するわけでもない就職活動であり、企業側も学生(被採用者)側ももっとナチュラルに就職のお見合いができるでしょう。

私はようやくそんな時代が訪れつつあるのか、と思うと実に嬉しく思います。経団連不要論まで飛び出していた中で中西さんだけは少なくとも良い仕事をしてくださっているようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月21日の記事より転載させていただきました。