情報銀行って、もうかるんですか?

「情報銀行サミット」を開催しました。ぼくが理事長を務めるニューメディアリスク協会NRAが主催です。


個人の活動によって発生したデータは個人もコントロールできるようにすべき、とする考え方が広まる一方、個人がコントロールできるデータ量には限度がある。
そこで、個人の代わりにデータを安全に企業とやりとりする仕組みとして「情報銀行」が検討されてきました。
その課題と展望を議論しました。


冒頭、平井卓也IT・科学技術担当大臣が登壇。
「日本は情報共有が苦手だが、若手はマインドセットが完全に変わった。オープンイノベーションで社会問題を解決していく。世の中はデジタルで確実によくなっている。」
同意します。
IT専門家が大臣のうちに、あれこれ進めたいものです。

総務省情報通信政策課の飯倉主税調査官は、官民データ活用推進基本法や政府・IT本部、総務省などでの検討を経て情報銀行の仕組を整えていることを説明。
官による法規制ではなく、民間主体のソフトローによる共同規制で行くことを明言しました。
適切な方向だと考えます。

その受け皿として、日本IT団体連盟が認定スキームを用意。
宍戸常寿さんや森亮二さんらが関わってガバナンス体制を整備しつつ、銀行の認定を受付スタートしたそうです。
ベンダー、金融、電力、旅行など多様な業界が情報銀行ビジネスに動きを見せているとか。

これら状況を説明いただいてから、中部電力で情報銀行を構築している黒木信彦本部長、位置情報を情報銀行に提供するレイ・フロンティアの田村建士社長、関連ビジネスに詳しい河合健弁護士の3名に登壇いただき、伺いました。

まず法務面。データと個人情報、プライバシーなどの線引きはグレーで、だからこそビジネスとしてうま味があるのだと思うが、どう考えればいいか。
河合さんは、データに所有権はないとしつつ、個人情報の解釈は企業によって異なる、とその曖昧さを認めます。

黒木さんは、電力使用量だけで、マンションに人が済んでいるかどうか、何時ごろ活動しているか、工場が稼働しているかなど街や産業のさまざまなことが把握できるとします。
そのデータは個人のものか。家族のものか。工場のものか。その線引きは難しいが、利用者に見えるようにしているとのこと。

田村さんも同様の認識を示しつつ、ユーザに便益やメリットをどう返すかが重要と言います。ですね。
ユーザが便益を認識して使うようになるか。データを提供することでハッピーになれるか。その明確化が先に立ちます。
会場から、情報銀行の訴求力が弱いという指摘がありましたが、その点のことでしょう。

情報銀行を使うことでポイントが受けられる、ゲームができる。
健康データや乗車データで保険の利率が変わる。
ライフログを記録することで自己管理ができる。
そのようなメリットが提示されました。
田村さんは、献血のように社会に貢献するメリットもあり得ると指摘します。

課題は安全性。データを預けることの「気持ち悪さ」です。
キャッシュレスもシェアエコも進まない不安大国ニッポン。
官民の共同規制で安全を担保しようとはしていますが、それを安心に変えるのは簡単ではない。

黒木さんは、見える化、コントローラビリティ、トレーサビリティの3点を重視します。
データや使われ方を本人に見えるようにすること、個人データを自分で管理できるようにすること、それがどう使われるかを追跡できるようにすること。
銀行の仕組をどう整えるかということと同時に、ユーザがどう安心できるサービスにするかがポイントです。

そのうえで、最後に肝心な質問。情報銀行って、もうかるんですか?
これはお三方も会場も、少し静かになりました。
情報銀行はパブリックな事業ですもんね。電力会社が乗り出すのも理解できます。
シェアエコっぽく地域ごとに発達していくのかもしれません。

中部電力の実証にはDNPやスーパーが参加しているそうです。
そうした企業がユーザにポイントなど利息を返すとするなら、たくさんの企業コンテンツが参加するプラットフォーム化が将来の方向でしょうか。
すると大手銀行や通信キャリアが力を持つのでしょうか。

このあたりで時間切れ。
田村さんが「AIはコモディティ化するが、データはしない。」とぼく好みのセリフをはいて終了です。
そう、AI+5Gでエッジ処理されるようになると情報銀行の機能はどうなるのか。
ブロックチェーンと親和性が高そうに見えるが、実装されそうか。
このあたりは次回に伺いたい。

主催のNRAは2012年に発足。
当時、バイトが冷蔵庫に入るなどの炎上が多発、民間で対策を講じることが主目的でした。
なので世間からは「炎上協会」と呼ばれた!
いったん落ち着いたが、ちかごろ第二次炎上ブームです。
炎上の世代交代と、インスタやtiktokなどメディアの変化が原因。
新対応が必要です。

このように常に新テーマとビジネス機会に向き合っています。
昨年は暗号通貨とICOをテーマにしました。
来年は何がテーマになりますかね?


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。