米国政府は中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が中国のスパイ活動を支援しているとして米国市場から追放する一方、カナダや欧州諸国にも同様の処置をとるように働きかけてきた。米国政府は今年に入り、カナダ政府が昨年12月、米政府の要請で逮捕したファーウェイ社の創設者任正非氏の娘、孟晩舟・財務責任者の引き渡しを要求したばかりだ。
例えば、東欧のチェコのアンドレイ・バビシュ首相は昨年12月18日、内閣の職員に対して、ファーウェイ製スマートフォンの使用を禁止している。理由は「中国のファーウェイと通信大手の中興通訊(ZTE)のハードウェアやソフトウェアを使用すると、セキュリティ上の問題が出てくる」からだという。ポーランドでは1月8日、ワルシャワのファーウェイ社事務所の中国人職員がスパイ容疑で逮捕されている、といった具合だ。
その一方、米国と情報提携が強固な英国でメイ政権は24日、ファーウェイによる次世代通信規格(5G)網への参入を認める決定を下している。すなわち、ファーウェイ製の機材がスパイ活動に利用されているという米国側の主張に対して、欧州では依然懐疑的な意見があることを裏付けているわけだ。
米国の主張に懐疑的な主な理由は、①ファ-ウェイは国有企業ではなく、民間企業だ、②技術的にファーウェイ社の機材で中国共産党政権のスパイ活動を支援している証拠がない―の2点だ。
中国問題専門家で筑波大学名誉教授の遠藤薫氏は先日、パトリオットTVとのインタビューの中で、習近平国家主席が推進する「一帯一路」プロジェクトに対して日本が支援することを警告する一方、同国のファーウエイが中国共産党政権のスパイ活動を支援しているという米国の主張に対して「ファーウェイは民間企業だ。ZTEのような国有企業ではない」と説明、ファーウェイの情報工作説を否定している一人だ。
中国当局が公開する工商登記情報によると、ファーウェイは純粋な民間企業で創設者の任正非氏が株の1%を握り、他の99%はファーウェイ社の社員の労働組合(華為投資控股有限公司工会)が所持している。従業員の持株制度だ。だから、中国共産党政権はファーウェイにスパイ活動を強要する権限も法的権利もないという理由だ。
それに対し、海外中国メディア「大紀元」は24日、「ファーウェイの所有者は誰?」の記事で、中国の法律に精通した米国専門家、ジョージ・ワシントン大学法学部教授のドナルド・クラーク氏とフルブライト大学ベトナム校のクリストファー・バルディング教授が発表した調査報告書を報道し、「ファーウェイの従業員持株制度は、一般的な従業員持株制度と異なる。中国の労働組合は、当局の支配下にある中華全国総工会が管理しているため、ファーウェイの社員は労働組合の方針、決定などに発言権を持たない。ファーウェイが社員に与える『ファントム・ストック(Phantom Stock、架空の株式)』も実質的には賃金の一部でインセンティブであり、法で定める会社の所有権や経営決定権と無関係だ」という主張を掲載している。すなわち、ファーウェイは登記上、民間企業だが実質的には中国共産党政権の管轄下にあるというわけだ。
中国では「宗教の自由」は憲法で保障されている。だから中国では「信仰の自由」は認められているとはいえない。キリスト教徒、イスラム教徒、チベット仏教は中国共産党政権から激しい弾圧を受けている。同じように、登記上、ファーウェイが民間企業としても実質的には共産党政権の情報活動を支援している国有企業の疑いがあるわけだ。中国共産政権下では、憲法や法律で何が明記されているかが重要ではなく、実際、何が行われているかが問題となるからだ。
「大紀元」は一つの実例を紹介している。広東省最高人法院(地裁)は2003年、ファーウェイ社の2人の社員が株式の買い取りを会社に要求したが、拒否された。そこで訴訟を起こしたが、「ファーウェイの発起人だけが工商管理部門で登記しているが、同社の社員は株主として登録していない。ファーウェイの労働組合が保有する株式は『ファーウェイとその社員の契約』であり、ファーウェイ社員は同社の株主ではない」と結論を下している。ファーウェイが国有企業であることを裏付ける判決だ。
次は、技術的にファーウェイ製機材は中国共産党政権に情報を提供しているかだ。「大紀元」によると、米IT大手のマイクロソフトは今年1月、ファーウェイが製造するノートパソコンに、不正アクセスのための侵入口であるバックドアが設置されているのを見つけた。マイクロソフトは3月25日に公開したセキュリティ情報で、ファーウェイ製ノートパソコン、MateBookに搭載されているPCManagerソフトウェアを使うと、権限のないユーザーでも、スーパーユーザー権限でプロセスを作成できると警告している。ファーウェイが開発したデバイス管理ドライバーが原因だ。マクロソフトの報告を受け、ファーウェイ社は1月19日、ソフトウェアの修正プログラムを発表している。
以上をまとめる。
ファーウェイは実質的には国有企業の可能性がある一方、技術的にもファーウェイ社の機材に過去、不法なアクセスが可能なバックドアが設置されていたことが発見されている。ファーウェイ製の機材に慎重にならざるを得ない理由だ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月26日の記事に一部加筆。