3月中旬にロシアからベネズエラのカラカス空港にイリューシンII-62Mに搭乗していたロシア軍人99人と35トンの必要物資を積んだ大型輸送機アントノフAn-124が到着したというニュースは世界に報じられた。
ロシアの国営通信社スプートニクは24日、南米ベネズエラにロシア軍機2機が兵士と装備品を輸送したと報じた。 https://t.co/UiQE5KkqC8
— AFPBB News (@afpbbcom) 2019年3月25日
ロシアがベネズエラに次第に介入を強めている。それは米国の軍事介入をますます難しくさせる。なぜなら、仮に米軍がベネズエラに侵入した結果、ロシア兵と武力衝突するような事態になると嘗てのキューバ危機ではないが世界的に緊迫した状況を生み出すことになるのは必至だからである。(参照:eltiempo.com)
ロシア軍の使命は、カラカスから200キロ離れたグアリコ州の空軍基地エル・ソンブレロに米国からの空爆を警戒して対空防衛システムの構築をする為である。仮に米軍がベネズエラに侵入するとなると米軍はその被害を最小限に留めるべく最初の攻撃は空爆となるはずだ。対空防衛システムはそれに備えるものである。(参照:lavanguardia.com)
ミサイルシステムS-300が2013年にロシアからベネズエラに提供されているというのは、スプートニクが世界の武器販売分析センターのイゴール・コロチェンコ所長にインタビューして明らかにしている。(参照:www.elnuevodia.com)
今回の派遣されたロシア軍人は、ヘリコプターのパイロット養成センターの開設もひとつの使命だとされている。またサイバーセキュリティーの専門家もいるという。
(参照:lavanguardia.com)
しかし、この2機がカラカスに到着する前の1月にロシアから400人の傭兵が到着したという報道は余り明るみにはされていない。マドゥロ大統領の身の安全を守る為である。それは同時にロシアのベネズエラにおける利権を守ることに繋がる。
この傭兵が属しているのはロシアの民間軍事組織ワグナー(Wagner)である。ワグナーはディミトリー・ウトキン(Dmitriy Utkin)というロシア軍特殊部隊の中佐だった人物が2013年に創設した軍事組織である。あたかもプーチン大統領の私設の軍事組織と言われている。世界の紛争地域でロシア軍として表立てて行動できないような場面で軍事任務を遂行するのがワグナーである。彼らはこれまでシリアやウクライナ、北アフリカなどに派遣された。シリア紛争ではワグナーのメンバーが200人死亡したという。
傭兵の活躍はロシアでは公表されない。ロシアでは法的に傭兵は違法とされており、しかも彼らが外国で活動するというのは最高16年の刑が科せられることになっているという。
ブルームバーグの2017年12月の推定によると、およそ6000人の戦闘員で構成されているとう。大半がロシアの元軍人で、高給を稼ぐことができることからこの組織に入るのである。(参照:elespectador.com:elconfidencial.com)
電子紙『Venezuela al Dia』(2019年1月27日付け)によると、マドゥロは彼らに給与として2650ドル(29万2000円)を支払い、3か月毎にボーナスとして給与の100%分を支給しているという。ロシア軍に籍を置いていても数百ドル程度しか稼げない現状ではワグナーに入隊するのはロシアの軍人にとって魅力ある請負仕事なのである。
困窮しているベネズエラ経済で、マドゥロは自らの命を守るのに高額のお金を彼らに払っているというわけである。(参照:venezuelaaldia.com)
一方、フアン・グアイドーは暫定大統領として宣誓して3か月が経過している。市民に公平な選挙の実施を公約した。そして今もマドゥロ大統領の存在に抗議する集会を定期的に開催している。が、3か月前にマドゥロ政権を打倒して新しい政治改革への市民からの支持とそれへの情熱が次第に消え失せていると専門家は指摘している。しかも、特にロシアからのマドゥロ政権を支えようとする動きが予想外に積極的だということと、米国が科している制裁がどこまで実際に効果を発揮しているのか疑問視されるようになっているという。
(参照:portafolio.co)
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家