VUCA時代における「失敗から学ぶ」企業のリスクマネジメント

さきほど(5月13日午後10時)、日経ニュースで「大塚勝久氏、久美子氏の設立団体の名誉会長職就任を辞退」と報じられ、その理由が「むずかしい立場にありながら、匠大塚への協力を惜しまなかった取引先への感謝の気持ちを大切にしたい」とのこと。取引先と従業員との違いはありますが、昨日のブログで書いた予想がほぼ当たっておりまして、やはり勝久氏は経営者だなあと改めて感心いたしました。

また、話題は変わりますが、LIXILさんの会社側取締役選任候補者が発表されたそうですが、「取締役8名選任に関する件」となっています。LIXILさんの定款では取締役の人数上限は16名ということで、いよいよややこしいことになってきました。会社側8名、株主側8名の「取締役選任の件」は(2名が候補者として重複しているので実質は14名ですが)、いずれも「議題」として両立しそうです。つまり議題が2つとすれば14名の取締役が選任される可能性があります(株主側は「8名が一体として選任されることに意味がある」とのべておられるのは、こちらの解釈でしょうか。そこに修正動議ということも考えられます)。

また、議題を一つとして「14名の候補者の中から8名を選任する」という取扱いも可能ですから(会社側はこちらの解釈をとるのでしょうか)、そうなりますと双方から重複して候補者とされている方々は、就任承諾をどうするか・・・という点にも慎重な配慮が必要になりそうです。総会検査役も巻き込んで、委任状争奪戦に向けて双方の戦略が練られることになるのでしょうね(ということで、ようやく本題です)。

写真AC:編集部

本日は、過去に大きな不祥事を起こした某メーカーさんのコンプライアンス研修に、公認会計士のコンサルタントの方と行ってまいりました。同社に伺って感銘を受けたことが二つありました。

ひとつは「過去の失敗記念館」の存在です。企業の存亡に関わる重大不祥事を決して風化させてはいけない、ということで不祥事を発生させた製品の一群が飾られ、当時の生々しいマスコミ報道記事の多くがそのまま「切り抜き」として、大きな額に飾られていました。海外からゲストが来られたとき、新しい社員を迎えたときに、この記念館を回って紹介されるそうです。あまりに立派なモニュメントに驚きました。

そしてもう一つが「リコールの要否」に関するディファクト・スタンダードの転換です。重大不祥事が発生する前までは、リコールを不要とするほうを標準として、必要とする根拠事実が積みあがった場合にリコールを決定していたのですが、重大不祥事発生後はこれを180度転換し、現場から上がってきた事実については原則としてリコール必要とする、もし不要とすべき根拠事実が積みあがった場合には取締役会に上げ、そこで審議事項として社外役員も含めて要否の最終審議を行う、というもの。私には目に見える「記念館」の存在よりも、こちらの内部統制の運用転換のほうにたいへん感銘を受けた次第です。

VUCA( ブーカ、Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代背景がますます濃厚となり、どこの企業でも不正リスクの顕在化は避けられません。企業が立ち直れないほどの不祥事は困りますが、私は失敗を繰り返す企業のほうが「予測困難な時代」には失敗をしていない企業よりも組織として強いと考えています。なによりも「不正リスクが顕在化した際の『ぶっつけ本番』の思考力や胆力」が養われていますし、また上記某メーカーさんをみていても、過去の失敗によって守りだけでなく、攻めの組織力も強化されるからです。過去の成功体験にとらわれず、大胆なガバナンス改革やESGへの取り組みを敢行する姿勢は、どうみても重大不祥事を契機にしたものとみられます。

仕事柄、過去に大きな不祥事を発生させた企業のコンプライアンス委員を務めたり、研修に伺ったりするわけですが、「またこの会社は重大な不祥事を起こすだろうな」と感じる組織と、「失敗を糧に以前よりも競争力が強くなった」と感じる組織に分かれます。とりわけVUCAの時代となり、その傾向は強くなっていると感じております。どこを見ればその差がわかるのか・・・いう点については、私の拙い観察による持論がありますが、それはまた別途講演等でお話させていただこうかと思っております。失敗はないに越したことはありませんが、でもやっぱり失敗は組織を強くします。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。