東証の上場基準見直しと地方銀行生存競争

岡本 裕明

東京証券取引所が来年にも現在の4つの市場区分(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダック)を3つの区分に変える予定です。変更後のコンセプトは新1部が比較的規模があり、成長が見込め、投資家が安心して投資できる銘柄群、二つ目の市場が比較的新たに生まれ、まだ規模は小さいが今後、高い成長性が期待できる銘柄群の市場、そして三つめが成熟して安定した事業展開を図る企業群という区分けを考えているようです。

東京証券取引所(写真AC:編集部)

現在東証1部には2100社余りありますが、その上場基準の一つである時価総額は20億円となっています。これを250億円、ないし500億円に引き上げるという案で現在、検討が進められているようです。

こうなると今まで東証1部と言っても名も知れなかった企業の多くは新1部に残れず降格、上述の成熟して安定した企業群の枠組みに押し込まれることになります。私の表現は体裁がよいのですが、正直、「失格部屋」のようなイメージすら湧いてくるのかもしれません。

当然ながら誰が降格されるのか、という話がその世界では話題になっているわけですが、特に注目されるのが「地方銀行の受難」であります。地銀の多くは時価総額が低く、降格対象が250億円の場合は概ね18行程度、500億円の場合には32行程度が降格しそうです。当初、検討委員会ではこの足切りが1500億円、1000億円、500億円の3案でスタートしていることから最終的に本当に250億円まで下りてくるのか、いまだ不明なところではあります。

時価総額算出の方法としては3カ月程度の平均株価から算出するとみられます。となればボーダーラインにいる企業は株価対策を進めないと降格ということになり、決死の民間型PKOもありうるかもしれません。20年3月決算の最終見込みがその成績に直接響く公算となれば今期が勝負とも言えそうです。

さて、地銀の再編といえばその悪役の主役はスルガ銀行でありました。そのスルガは時価総額が1000億円程度あり、今般新生銀行との提携も発表され、災い転じて福になりつつあります。もともと同社にはノジマが大株主になるなどかつての創業者との切り離しが進んでおり、ある意味、存在意義ある地銀としての再出発を模索しているように思えます。銀行業は何もしない業種というイメージからすればスルガほどメディアを賑わす会社はないわけで、今後の期待感すら湧いてくるのであります。

地銀は106行のうち18年3月期時点で54行が本業での赤字を記録しています。金融庁の一部からは地銀が新1部に残る価値を否定する意見もあるとされ、地銀再編は必須ともいえるでしょう。ファイナンスがグローバル化する中で近所の〇〇銀行とのお付き合いぐらいでは付き合う方が面倒で困る時代になりつつあります。個人では旅行や転勤などでも使いやすいキャシュカード、企業からすれば県外進出といった成長がある中で地銀だけは江戸時代の幕藩体制のような身動きが取れない体制で、このギャップが現在の根本問題なのだろうと思います。

では地銀は他県の地銀とくっつけば良いのか、といえば今の収益力からすれば「弱い者同士」であり、補完関係が生まれません。上述のスルガの場合は新生銀行との業務の住み分けを通じた一種のグループ化を図る点とスルガがプライドを捨てたところに意味があります。

個人的にはまず、日本のエリアごとへの再区分化(北海道、東北、関東、中部、近畿、四国、中国、九州沖縄)を行い、メガバンクやその他都市銀行との提携をベースに業務範囲の再区分け実施、更には証券業務の取り込みなどが順当な考え方ではないかと思います。メガバンクは地方企業の企業審査や小口取引の業務を地銀に委託するなどの効率化が考えられます。証券業務は銀行からのワンアクセスが必須の時代です。銀行が扱う投資信託では販売する商品には限界があり、広がりがないでしょう。

金融庁や政府がまずはビジョンを作ってあげるべきではないでしょうか?東証の足切りはある意味、その問題を可及的速やかに対応させる後押しをしているようにも感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月14日の記事より転載させていただきました。