あくまで「野党外交」である。
衆議院議員の丸山穂高氏が「ビザなし交流」の一環として北方領土を訪問した後に元島民に対して「戦争でこの島を取り戻すのは賛成ですか?反対ですか?」と発言して物議をかもしている。
この発言は酒に酔ったうえでの発言らしく(参照:J-castニュース)、最終的に丸山氏は元島民に謝罪した。この発言を受けて丸山氏が所属する日本維新の会は同氏を非難するとともに除名処分にした。
今回の騒動を受けて丸山氏の政治家としての資質、また北方領土問題に対して日本がどのように挑むべきなのか様々な意見が出ており、このアゴラでも既に新田氏が論説を出している。
さて、丸山氏は「ビザなし交流」の一環として北方領土を訪問した後に「戦争」発言をしたわけだが、北方領土問題の性質を考えればこれは「国内の活動」とは言い難く、常識的に考えれば「ビザなし交流」は外交活動であり、丸山氏の行動は「野党外交」と位置付けても良いだろう。
丸山氏の発言は失言だが、氏が野党議員であることは忘れてはいないか。今回の騒動はあくまで「野党外交の出来事」であることに注意しなくてはならない。
丸山氏の発言を受けて「政治家の資質」「国際政治の本質」を議論することも重要だが「野党外交」についても議論すべきである。
「野党外交」は日本の利益になっているか?
戦後日本のほとんど期間与党だったのは自民党であり、同党は常に日米同盟の発展・強化に努めてきた。一方で自民党は巨大与党であり、党内でもその外交政策は完全に一致していない。例えば現・自民党幹事長である二階俊博氏は「親中・親韓派」として知られているし、昨年、安倍首相と自民党総裁の座を巡り争った石破茂氏も対中・対韓外交は安倍首相と異なると思われる。
もちろんこれは自民党内での外交政策の「差」に過ぎないから日米同盟を否定するようなことはない。しかし、それでも「差」はあるのだ。
日本国憲法は内閣が外交を行うことを要請しているから内閣への参加の有無を基準に自民党内の外交政策の「差」を「与党」「野党」の言葉を用いて説明することも出来よう。
対中・対韓外交に限って言えば内閣の首長たる安倍首相が「与党」であり、内閣に参加していない二階・石破両氏は「野党」である。もちろん現役の自民党幹事長である二階氏と無役の石破氏を同列に扱うわけにはいかないが両者ともに「野党」であることに変わりない。
更に国会少数派の野党、要するに非自公勢力の外交政策は安倍内閣と異なることは説明を要さないだろう。
最近では沖縄県の玉城デニー知事も独自の自治体外交を展開しており、これも「野党外交」と位置付けても良いだろう。繰り返しになるが日本国憲法は内閣が外交を行うことを要請している。
「与党内野党」「国会少数派野党」「自治体野党」らは外国に訪問したり国内で外国要人とあったりする「野党外交」を展開している。
こうした「野党外交」は「パイプ作り」の名目で正当化されることが多い。きちんと「パイプ」として機能するなら問題はないが相手国の「拡声器」最悪「代理人」に成り下がっていないか。
現在の「野党外交」が日本の利益になっているか甚だ疑問である。
「戦争」発言と「日朝友好推進」のどちらが問題か?
近年「野党外交」の一環として「日朝友好」を推進している政治達家がいる。
昨年のちょうど今頃に超党派の地方議員100人規模による北朝鮮訪問が計画されていた。
実際は訪朝しなかったようだが、こうした計画があった事実は日本の平和のためにも記憶されるべきだろう。
日本国憲法は内閣が外交を行うことを要請しているから「地方議員が訪朝したところで何が出来るのだろうか」と思う方も少なくないだろう。
一方で地方議員だからこそ純粋な意味での「友好・親善」が期待出来ると思う方もいるかもしれない。「地方議員」は「草の根」とか「市民目線」の印象がある。
しかし現役の地方公務員である筆者からすると「地方議員の訪朝」はつい別の視点で見てしまう。
北朝鮮による拉致問題発覚後、朝鮮総連関係施設への固定資産税減免の取り消しを実施している地方自治体が増えており、この是非については時々、報道される。
減免措置取り消しは適法 朝鮮総連支部訴訟、大阪(産経新聞 2018年9月13日)
固定資産税は自治体財源でも主要な地位を占めており、地方行政では「固定資産税」の響きは大きい。国地方問わず基本的に政治家は増税を主張せず減免を主張するのが普通である。
地方議員が訪朝した場合、朝鮮労働党関係者が地方議員に対して「朝鮮総連関係施設への固定資産税減免を復活して欲しい」と要望する可能性は否定できない。というよりしないことなどあり得るだろうか。
筆者も朝鮮総連には往時の勢いはなく衰退していることは承知している。
朝鮮総連の活動が強烈だった理由として在日コリアンの北朝鮮帰国事業により朝鮮総連加入者の親族が北朝鮮本国で「人質」状態になっていたことが挙げられるが、これも「過去の話」という指摘が出来るだろう。
しかし朝鮮総連のような組織に税が軽減あるいは免除される、要するに「朝鮮労働党の出先機関」に対して利益供与がなされることが日本の平和に繋がるどうかは別途の議論を要するには明らかだろう。
丸山穂高氏の北方領土訪問と地方議員の訪朝も同じ「野党外交」であるが、前者は失言騒動を起こしたとはいえ深刻な話とは思えない。領土返還交渉に悪影響を与えてもそれは軽微であり短期間で修復する程度のものである。夏頃にはロシアも忘れているだろう。
しかし後者は一歩間違えれば朝鮮総連に妙な特権意識を持たせ日本国内に安全保障・治安上の「治外法権」を「復活」させる可能性もあるし訪朝の可能性(危険性)が消えたわけではない。
我々日本人が関心を寄せるべきものはどちらかなのかは明らかではないか。
外交目標の共有を
ここまで筆者は「日本国憲法は内閣が外交を行うことを要請している」という表現を繰り返し使ったが、誤解がないよう強調しておくと「野党外交」を否定するつもりは全くない。「与党内野党」も「国会少数派野党」も国民の利益になるのなら積極的に野党外交を行うべきである。
筆者の職域で言えば「自治体外交」はまさに「市民と市民の交流」であり、その価値は向上する未来しかないと確信している。
便宜上、内閣が「主体」となって外交を行わざるを得ないが、内閣は外交を独占すべきではない。
日本の外交・安全保障政策で問題なのは各主体が独自に動いてしまい統一性がないことである。この分裂した外交は大日本帝国時代と比べれば改善はされているが、その志向は依然、強い。
必要なのは内閣・与党内野党・国会少数派野党・地方自治体が外交目標を共有することである。
今回の騒動では北方領土が話題となったが領土は国の基礎である、それを「取り戻す」はともかく「守る」程度のことは出来そうだが、それすらも危うい状態である。
今回の丸山発言を契機に「野党外交」そして何よりも「何を守るべきか」を具体的に議論し、それを党派を超えて共有すべきではないか。
高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員