もしもトランプ大統領の中国に対するテンションが上がってきているのだとすれば、中国流のやり方に気が付き、本気にさせ、中国の勝手にさせないという断固たる姿勢に転じたからなのでしょうか。
トランプ大統領は大統領就任当初、習近平国家主席にここまで強烈な対立姿勢は見せていませんでした。例えば大統領に就任した直後の17年2月に安倍首相に「昨日、私は中国の習主席と様々な問題について非常に温かい良い会話をした。我々はこれからうまくやっていけると思う。それは日本にも非常に有益だと思う。日米中にも地域全体にも非常に良い結果をもたらすと信じる」と述べています。
またスティーブバノン氏は17年9月に「トランプ大統領は習総書記よりも尊敬してるリーダーは世界にいない」と発言するなど基本的には大国としての共同歩調、歩み寄りの姿勢はありました。
が、その後、徐々にスタンスが変わります。18年3月に「習主席を尊敬し、中国は友人と思うが、対中貿易赤字はどの国も経験してない史上最大の貿易赤字だ」となり、その後明らかに中国との距離感が生まれてきます。
トランプ大統領は今回、大統領令で「安全保障上の脅威がある外国企業から米国企業が通信機器を調達するのを禁じる」としました。具体的にはファーウェイ潰しと理解されています。
ファーウェイは今や世界で最も巨大になりつつある通信会社であります。同社はスマホもありますが、通信基地に強みがあり、5Gが普及していくにあたり、極めて大きな影響となる公算があります。中国では5Gの普及を2020年からとしていますがその計画見直しを迫られる公算はあります。特にクアルコム社からの半導体がないとファーウェイの事業は「自前で調達する」「十分在庫は持っている」と発言しているものの厳しい戦いを余儀なくさせられることでしょう。
18年4月のZTE社と米国企業取引停止の際には習近平国家主席がトランプ大統領に直接電話してその制裁解除を取り付けたという経緯があります。今回は前回のように習氏が電話で本件が解決できるとは思えません。通商交渉という大きな問題がある中でパッケージディールにしないと収拾がつかない状態にあるからです。
その習氏は国内の一部勢力から厳しい要求があるとされます。妙にアメリカに妥協すれば習氏の体制そのものに大きな動揺が広がる公算もあります。8月には恒例の北戴河会議があり、極めて重要な政治的議論がされるなかで国内政争にもつながりかねません。6月の大阪で開催されるG20で両氏が会談する方向と報じられていますのでその時までに実務レベルで落としどころを探れるのかがポイントになりそうです。
トランプ氏のこの姿勢に昨日の日本の株式市場は懸念売りが出ていましたが、NY市場は大きく買われています。強気一辺倒に見えます。思い出せば不人気だったブッシュ政権がイラクに介入した時、支持率が急上昇しましたが、強いアメリカという姿勢を打ち出すと国民の支持を得やすいことをトランプ大統領はちゃんと知っているのでしょう。だからこそ、時間をかけてでも通商戦争、あるいはファーウェイを抑え込み、アメリカを勝利に導くというメッセージを打ち出す戦略なのかもしれません。
個人的にはそこまでやるとは正直、考えていませんでした。もちろん、この米中泥沼バトルの結果次第ですが、仮にトランプ氏の思い描く結果が出れば敵なし状態になり得ます。折しもプーチン大統領がアメリカとの関係改善を望んでいるとポンペオ国務長官との会談で表明しています。
もちろん、それは来年の大統領選挙に対する強力な後押しともなりえるのでしょう。この大統領は世界地図を変えてしまう勢いがあります。いやはや、ここまでくると驚きであり、その強さに圧倒されそうになります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月17日の記事より転載させていただきました。