平成初期に高かった日本の時価総額が低迷しているワケ --- 水口 進一

寄稿

平成初期に世界の株式時価総額ランキングで日本企業が独占していたことに比べて現在の日本の時価総額が低いことを嘆く人が多いようです。ただ、平成初期に日本の時価総額が高かったのは競争力があったからではなく、単に株式持ち合いや財テクで日本企業が本業と関係ない資産を持っていたため、資本市場がゆがんだ結果、一時的に資産価格が高騰したにすぎません。

写真AC:編集部

株価は一株当たり利益✖PERであらわされ、PERは平常時であれば15前後になります。そして企業の将来性を市場が高く評価した場合はPERが平常時よりも上昇し、それが過大評価であればバブルになります。1980年代の日経平均のPERはピークで89まで上昇し、これはITバブル期のピークでNYダウが40前後、中国株バブルが起きた2007年の上海株が50前後だったのと比べても割高で、世界のバブルのなかでも日本のバブルが異常だったことがわかります。

また、日本のバブルは市場が日本企業を高く評価したというよりは、株式持ち合いで株主を排除した結果として市場の需給がゆがんで起こったという側面が強いです。当時の日本は株式持ち合いで市場に出回る株が少なくなっており、株式需給が逼迫して株価が上がりやすい状況でした。

さらに日本企業は本業と関係ない財テクを行っていたので、自社の株価が上がる→財務が改善して資金調達がしやすくなる→市場から調達した資金で財テクを行って資産価格が上がるというループを繰り返して株価が割高になっていたにすぎず、日本の競争力があったから日本の時価総額が高かったわけではありません。

もし日本の競争力を反映して株価が高かったのであれば製造業の時価総額が高いはずですが、当時の時価総額トップ10はほとんど銀行で、日本の銀行が製造業より競争力があったはずがありません。

そして現在の日本株は高すぎたPERが是正され、平常値の15前後で推移して日本企業の一株当たり利益を反映して株価が動くようになっています。一株当たり利益は株主資本をどれだけ有効活用したかを示すROEで決まりますが、世界のROEは二桁あるのが当たり前であるものの、日本は一桁でずっと低迷しており日本企業の収益性は世界と比べて大きく見劣りします。

日本の一株当たり利益は株価暴落が始まった1990年と比べて現在は3倍くらいになっており、日本企業は稼いでいないわけではありません。しかし、同期間にNYダウの一株当たり利益は10倍くらいになっており、稼ぐ力の違いが一株当たり利益の伸びの違いになって現れ、結果として時価総額で大きく差が開いているのです。

また、その日本企業の低収益は日本人自身が容認してきたものでもあります。2005年頃にライブドアや村上ファンドが出てきたときに、日本の経営は長期のことを考えているのだから収益性や株価について文句を言うなと言って一方的に株主を批判して内輪に閉じこもることを日本企業は選びました。長期のことを考えているのだから株価などどうでもよい、それを日本的だと言っておいて今になって日本の時価総額が低いことを嘆いているのはおかしな話です。

最近になって伊藤忠のデサントに対する敵対的TOBが成功して日本でもようやく大企業で敵対的TOBが成立しましたが、敵対的TOBすらまともに成立してこなかった日本の時価総額が低いのはむしろ当然でしょう。そして日本の時価総額が低いのは競争力が落ちたというよりも、敵対的TOBすら拒んで競争をしてこなかったことが原因です。

日本の時価総額の低迷は競争力が落ちたのではなく競争を避けるのを日本的だと言って内輪に閉じこもってきた結果にすぎず、日本の時価総額を上げたいのならまずは資本市場に競争を導入して稼げない企業や経営者を淘汰することから始めるべきでしょう。

水口 進一 京都大学経済学研究科卒の個人投資家
経営指標や資本効率に基づいた経済・経営記事を投稿しています。