銀行融資において、顧客の需要に真に適うことを徹底していけば、結局は融資の目的そのものへと遡及していくことになるはずである。
例えば、融資の資金使途が設備等のモノを購入する目的ならば、モノそのものを貸すことによって目的を直接に実現する方法もある。そして、資金を調達する企業の視点で両方法を比較検討したとき、モノを貸すほうが真の顧客の利益に適うと判断されるときは、モノを貸せばいいのである。
カネを貸すのは銀行で、モノを貸すのはリース業というように、金融機能の区分が違っているのは貸す側の論理であり、また金融規制の論理である。借りる側の論理では、カネを借りるのがいいのか、モノを借りるのがいいのか、自己の利益にとって都合のいいほうを提案してもらえればいいはずである。
ところが、金融規制には歴史的な背景などの複雑な事情があって、基本構造において業者規制になっている。その結果、例えば企業の資金調達については、銀行は融資、証券会社は株式や社債の引き受け、リース会社はリースというように、規制に基づく資金供給側の事情で個別に提案、というよりも自己勝手に営業することにならざるを得ないのである。
それでも、現在では規制の弾力化が進んでいて、大きな金融グループでは、持株会社のもとに複数の金融業務を統合し、資金を調達する企業の視点にたって総合的な提案ができるようになっている。地方銀行等でも、傘下にリース会社をもつのは普通のことである。金融グループとしては、一定の制限はあるにしてもカネも貸せるしモノも貸せるのである。
要は、借りる側の論理として、カネかモノか、有利な方法を選択すればいいのだが、では、その選択基準は、どこにあるのか。それは危険負担である。
モノには、故障、陳腐化等の危険、即ちリスクがある。モノの保有には、稼働率のリスクがある。それらのリスクを貸す側と借りる側で適切に共有する仕組み、即ち最適なリスクシェアリングのあり方が重要なのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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