5月10日から北方領土の国後島ビザなし訪問に参加した日本維新の会の丸山穂高議員が北方領土は戦争で取り返すのは賛成か反対かという問いを発した。ロシアという覇権国家相手に、話し合いではとても解決しない、戦争でもしない限り、返還は不可能なのではないかという問いかけの発言をしたのだが、これを批判する声が多い。
維新は14日、党紀委員会を開き、丸山議員に対し、除名処分とすると決定した。維新は有権者が支持するかどうか、つまり票になるかならないかという「アンテナ」がよく働いている。(一方、大阪自民党は哀れなほど、「アンテナ」が錆び付いているので、いつも墓穴を掘る。)
そんな維新が「丸山斬り」で、票になるかならないかを計算していないわけがない。丸山発言を問題と考える人と問題ではないと考える人の割合は私個人としては全体で「8:2」くらいの割合だろうと思う。この20%の右派的思考を取る集団は大阪において、地方選で維新を支持したとしても、国政選挙では、その多くが自民党に票を入れる傾向がある。いわば自民党のコア支持層だ。国政選挙では、維新が票を獲得するのが難しい集団である。
そのような集団のために、維新は丸山を庇ったとしも票にならず、むしろ、「丸山斬り」をして見せた方が国政選挙で、より多くの一般層の票を取り込める。したがって、維新の「丸山斬り」は選挙戦略上、正しい。
実は、維新を支持する集団は立憲民主党など左派政党への共感を持つ割合がかなり高い。2017年の総選挙では、維新は各選挙区で立憲民主党に随分と票を食われてしまい、自民党候補者に敗北した。この食われた分の票を取り返すには、「丸山斬り」が効果的である。
かつて民主党政権時代に民主党を熱狂支持した集団がある。今やその集団がゴッソリと維新に鞍替えをしている。この集団が維新の屋台骨を支えているので、維新の言動や思想の根本は左派的(社会契約論的)なのである。
一方、右派保守の中核層が地方選で自民党を支持しないのは大阪自民党が体たらくであることと、大阪自民党の地方議員の多くが左派的な体質を持っているということが大きな原因として挙げられる。地方議員の多くが安倍首相よりも石破茂氏に共感し、また、共産党と連携することに拒否意識がない。一昨年、サンフランシスコ市の慰安婦像で吉村が姉妹都市提携解消を主張した時も、自民党市議団は真っ向反対した。
右派保守の集団はこのような地方議員とは肌が合わないから、維新の方がマシと考える。しかし、国政では安倍政権支持の旗色をハッキリとさせるため、大阪自民党を支持する傾向がある。
今回の「丸山斬り」で、維新は右派強硬派の支持を失った。私はさらに、票を失う可能性もあると思う。というのは、右派強硬派は声が大きく、一応言論力もあるので、今回の維新の対応に激しい批判を浴びせる。この批判が強まれば、世論の一定の部分が右派強硬派に同調する可能性もある。
現に、5月14日の松井維新代表・大阪市長が囲み会見で、「ロシアの皆さんに申し訳ない」と発言し、維新の幹部がロシア大使に謝罪に赴いたことに対し、「どのように北方領土が強奪されたかを知っていれば、こんな発言はあり得ない」などの批判がある。維新が丸山議員の議員辞職勧告決議案を野党に呼び掛けたことに対しても、「共産党を含む野党と連携するのか」という反発も拡がっている。自民党が決議に同調しなかったのは「正しい判断」と評価する声もある。
こうした流れで、「丸山斬り」で票を失う幅が広がるようなことがあれば、維新の「丸山斬り」は一気にトーンダウンする可能性もある。逆に、丸山発言への反発が弱まらなければ、維新は党所属議員らと一丸となって、「丸山斬り」をさらに苛烈化させる可能性がある。
いずれにしても、維新が選挙に強い秘訣が、この一連の丸山騒動でも有権者にハッキリ示されたであろう。