このごろMMTが流行してネトウヨが勢いづいているが、リフレ派はMMTを批判している。普通の人にとってはネトウヨもリフレ派も似たようなものだが、彼らにとっては中核と革マルみたいに些細な違いが大事らしい。
騒ぎの発端は、朝日新聞が「中野剛志氏が日本政府の借金が仮に5000兆円になっても「全く問題ない」と言い切った」と書いたことだ。これにリフレ派がかみついた。高橋洋一氏が「政府の債務が5000兆円になるとインフレ率が1000%程度になる」と書いているが、どういう計算で1000%になるのかわからない。
それに対してネトウヨの中野氏は「高インフレでない限りは問題ない」という意味だと反論しているが、これはトートロジーである。問題は政府債務が5000兆円になっても、高インフレは起こらないのかということだ。物価水準についての超長期の理論としてはFTPLがあるが、これによると
物価水準=名目政府債務/財政黒字の現在価値
だから、名目政府債務が5000兆円になっても物価が今と変わらない(ゆるやかなインフレで収まる)のは、財政黒字(プライマリー黒字)の現在価値が5000兆円あるときだ。今は赤字だが、政府の計画どおり2025年に黒字になるとして、その後もゼロ金利が永遠に続くとしても、毎年50兆円の黒字を100年間出し続けなければならない。これは不可能である。
つまりシムズも指摘したように、日本で低インフレが続いているのは、国民が政府を過剰に信頼しているからだ。政府債務が5000兆円になっても国民が政府を信頼していれば何も起こらないが、信頼を失うとハイパーインフレが起こる。それを日銀のインフレ目標で止めることはできない。財政支出をコントロールするのは中央銀行ではなく、政府の仕事である。
では政府がどうやって財政赤字を止めるのか。これが大事なポイントだが、中野氏は「憲法に定める財政民主主義では国会が決める」と逃げる。政治家が財政支出を決めたら、選挙のたびに財政出動が行われ、社会保障支出は際限なく膨張するだろう。国債が暴落してインフレになったとき、国会で法改正を審議するのか。
だがこの問題提起は重要で、ロゴフなどの主流派も「独立財政委員会」の可能性を論じている。金融政策の限界が明らかになった今、MMTをトンデモ理論と片づけるのではなく、財政赤字をコントロールする制度設計を日本政府も考えるべきだ。