ヤフーで反響:恐怖をあおる医療記事を信じてはいけない

医療に関する話題で、ときには、読む人の恐怖を強くあおる話題が出されることがあります。恐怖をあおる情報でよくあるパターンは、○○しないと△△するぞ、というものです。こういう場合に重要なのは、○○と△△に、ある程度の因果関係や相関関係はあるものの、必ずしも○○が△△に直接むずびつき、百パーセントその結果が起こるというわけではないことです。

ところが、読者のほうは、その「脅し」にすっかり心を奪われてしまい、「どうしよう、どうしよう」と、途方に暮れてしまいます。疾患の治療成績には、プラセボ効果や、ストレスなどの心理的要因もある程度影響があることがわかっていますから、読者にストレスを与えるこういった情報は、負の側面のほうがむしろ強いとわたしは考えています。

写真AC:編集部

5月10日のヤフートピックスに「ダイヤモンドオンライン」から配信された、以下のようなコラムが転載されていました。

「足のかゆみ」でまさかの足切断! 主治医の指示を無視した55歳妻の後悔

ヤフートピックスといえば、主要ニュースおよび、各カテゴリー「国内」「国際」「スポーツ」「経済」「科学」などに対して、各8本が編集部の判断で選ばれ、掲載されます。「ダイヤモンドオンライン」などの雑誌の転載や、それを誌面のどこにもってくる、などの判断はAIが行っているようですが、毎日選ばれ、ページの最上部に掲示される「トピックス」だけは、「公共性」などの基準をもとに、編集者が判断し、人力で選んでいます。

ヤフーニュースは月間約130億PV程度を誇っていますが、トピックスに掲載されることでPVは飛躍的に上昇し、コメントも多くつきます。この記事も、医療記事としては異例の1000を超えるコメントがつき、多くの共感を獲得しているコメントの中には「自業自得」という言葉もみられました。

記事の内容は、55歳女性が、「足のかゆみ」を訴えていたが原因がはっきりせず、あるとき血管が詰まり、膠原病によるものと診断され、バイパス術(詰まった動脈の上流に自分の血管や人工血管をつなげて迂回路をつくること)を行った。その後、専門的治療を受けるために大学病院の受診を勧められたが、忙しくしているうちに三ヶ月が過ぎてしまい、血管障害により足を切断しなければならなくなったという顛末です。

これを読んで、「膠原病」を煩っている方ではなくとも、忙しさで受診が遅れており、「自分にも似たようなことが起こるのではないか」と心配になった方もいらっしゃるのかもしれません。

では、この記事の問題点はどこにあるのでしょうか?

①確定された病名が書いていない

このような不運な転機をたどった患者さんの記事を書く際には、確定診断された「病名」が不可欠なはずです。そもそも、膠原病、というのは、正確には病名ではありません。血管や皮膚などに存在する結合組織に対して、主に自己免疫機序によって炎症が引き起こされる病気の総称であり、いわばカテゴリーのようなものです。

具体的には、記事中にもあるように「慢性関節リウマチ」「全身性強皮症」「SLE」「シェーグレン症候群」「結節性多発動脈炎」など、含まれる疾患は多岐にわたっており、それぞれ引き起こされる症状は異なっています。

記事中には、医師の説明が、「専門用語が多すぎて全然頭に入らない。正式な病名もわからなかった」とありますから、患者さんが理解できるように説明を行わなかった主治医にも問題の一端はあるかもしれず、この記事のテーマは、もしかしたら、「医師の言うことをきかずに足を切断した」ではなくて、「医師と患者の間でコミュニケーションがとれていなかった」ということではないでしょうか。

②合併症の記載もない

そもそも、「足切断」の原因として、関節リウマチなどの「膠原病」が原因となることは多くはありません。兵庫県の調査では、足切断の原因として、2000-2004年では糖尿病と末梢動脈疾患で8割以上を占めています(1)。末梢の閉塞性動脈疾患に膠原病もふくまれますが(2)、まれで、ほとんどが生活習慣病による動脈硬化に起因しています。

また、そもそも足切断は、欧米諸国に比して、わが国は非常に発生率が低いことが知られています(10万人に1.6人)(1)。ですから、「膠原病」と診断をされた患者さんが、すぐに足切断の心配をしなければならないのかというと、全くそんなことはないのです。

※画像はイメージです(写真AC:編集部)

また、中高年以上となると、疾患はひとつではなく、複数合併している場合もあり、「膠原病」を治療されている方が、糖尿病や動脈硬化を併発していることも十分あり得ます。その有無の記載がないので、足切断が、必ずしも「膠原病」だけのせいとも言い切れないかもしれません。

③「受診が三ヶ月遅れたこと」と、「足切断」の関連は不明

この記事では、受診の遅れと足切断に因果関係があるかのように書かれていますが、そうである証拠は示されていません。指示に従って受診をし、内服治療をしていても、足切断が避けられないことはあります。仮に、指示通りに受診をしていたとしても、結果が変わらなかった可能性も低くはないとわたしは思っています。

実際には関連がないかもしれないことを、因果関係があるかのように書き、恐怖をあおることは、非常に問題だと思います。読者の中には、自分のことに置き換え恐怖感を覚えた方もいらっしゃるでしょうし、また、足の切断をされた患者さんたちは、「自分も、もしあのときああしていれば……」と、まったくそんな気持ちになるいわれはないのに、深く後悔される方もいるかもしれません。

恐怖をあおるような記事は、どうしても、よく読まれるせいか、時々出てきてしまいますが、読むときは、病名や合併症がちゃんと記載されているか、無理矢理因果関係がこじつけられていないか、読み手側にもリテラシーが要求されるところです。また、ヤフー編集部など、記事をピックアップする側にも、その社会的影響を認識してほしいところではあります。

(1) 澤村誠志「切断と義肢」第二版 医歯薬出版株式会社
(2) 末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)

松村 むつみ
放射線科医・医療ジャーナリスト
プロフィール