良い段取りで、相手の期待を上回るパフォーマンスを示すことができれば、信用を高めることができる。今回は、『ケンブリッジ式1分間段取り術』(あさ出版)を紹介したい。ベストセラー作家、塚本亮さんの新刊になる。
マイケル・ジャクソンの振付師で、「THIS IS IT」のディレクター、レディー・ガガやビヨンセなどの振付やステージプロデュースをしてきたトラヴィス・ペイン氏のイベントで、MC兼通訳をさせてもらった時のエピソードである。
徹底的に分析して見えてきたこと
それまではビジネス通訳は少しだけ経験がありましたが、イベントでの通訳、それも世界的に著名な方の通訳は初めてだったそうである。
(塚本さん)「面白そうだし、いい経験になると思ったので引き受けましたがイメージが全然ありませんでした。そこで、エンターテイメントやスポーツの通訳をされている方の動画をたくさん観ることにしました。あれこれ考えようとするよりも、すでにできている人をたくさん観ることでイメージが膨らみ、何が必要かを分析することができます」
(同)「ファンイベントですから、ペイン氏とファンの方の交流のための通訳ということで、ビジネスとは違ってより感情的なつながりをスムーズに作り出す必要があるということ。ビジネスでもそうですが、その業界には業界独特の表現などがあります」
ファンイベンファンの方ならではの言葉が存在する。例えば、AKB48の「神7」という言葉が流行ったが、これがなんなのかを知らないと通訳はできない。
(塚本さん)「ビジネスの場合はどちらかというと情報と情報の交換の要素が強いですが、ファンイベントではちょっとした言葉のニュアンスで楽しさの演出なども考えなければなりません。そのためにはその業界の用語を徹底して調べ上げること、作品や活動歴などをも調べ上げてインプットしておくことが重要だとわかったのです」
(同)「英語力、日本語力も通訳としては重要ですが、固有名詞が固有名詞であると理解すること、ファンの用語を理解することも同じく重要であると気づいたのは、できる人の分析をしたからなのです。こうして私は、初めて引き受ける仕事をしっかり形にするための段取りをすることができました」
「守破離」の考え方を実践する
「守破離」という考え方がある。千利休が茶道を通して体得したと言われ、日本の茶道や武道などにおける思想として考えられている。
最初は、師匠の言いつけを守るところからはじまり、その後、自分なりの応用を加味することで、自分にあった型をつくりあげることができる。たとえば、茶道や武道には新たな流派が多い。これは、自分を型が新たな流派につながっているためである。
誰かに弟子入りしたら、まずは師匠に言われた、「型」、を覚え、「守る」ところから修業が始まる。教わった型をさらに研究して発展させ、より自分に合った型が完成すれば既存のものを「破る」ことになる。
最終的には、師匠の型、自分自身の型の双方を極めたことでさらに高みへと昇り、本質をつかんで、型から「離れ」て、自由自在に動くことができるようになる。ここまでいくと、武道や茶道において、新たな流派が誕生する。
これは、現代にも通じる成功の鉄則である。うまくいっている人を見て会得できたら、今度はその枠を超えて、良いものを取り入れて、自分なりのやり方を「構築・発展」させる。うまくいっている人には、その理由が必ずあるはずである。
[本書の評価]★★★(79点)
【評価のレべリング】
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満
※評価のレべリングについて
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)を上梓しました。