韓国・文在寅政権が最重要政策に掲げてきた「最低賃金引き上げ」が、雇用減少につながったことを公式で認めた。韓国国内のメディアの論調も厳しさを増している。
朝鮮日報によると、労働政策を所管する雇用労働部が21日、最低賃金政策の影響を調査した結果を発表。調査を担当した大学教授が「卸売・小売業の場合、雇用の減少がほとんどの企業で確認され、労働時間の縮小も同時に見られた」と指摘した。韓国国内ではすでに政策の影響による雇用減少が取りざたされていたが、政府が公式に認めたのは初めてという。
この発表の前から主要メディアは、文政権の雇用政策に疑問符を投げかけていた。中央日報は調査発表の前日に「最低賃金1%上げれば雇用1万件消える」とする検証記事を掲載し、各種統計の分析から「文政権の最低賃金政策は意図とは逆に職場を減らし、所得分配をむしろ悪化させたことが分かった」と結論づけた。
朝鮮日報も同じく結果発表前に「ほぼ完全雇用の日本、就職難でも自画自賛を続ける韓国大統領府」と題した社説を掲載。若者の失業率が最悪の結果が出た3日後に大統領府の雇用首席秘書官が「雇用状況は昨年より改善されており、希望的だ」と述べたことについて「ほぼ詭弁だ」と呆れ気味に論評。大卒がほぼ完全雇用状態の日本も引き合いに出し、「韓国の雇用状況だけがピンチに陥っているのに、これに対して責任を取るべき人々は自画自賛している」と痛烈に皮肉った。
日本でも近年、デービット・アトキンソン氏が「最低賃金引き上げで生産性を高める」と主張し、自民党でも2月に「最低賃金一元化推進議員連盟」が発足するなど、「最低賃金」政策の可能性に注目が集まっている。ただし、国情や経済構造の違いもあるので、今回の文政権の「失敗」が他国にもそのまま一般化するべきなのか見極めが必要だ。
というのも、文政権の場合、アトキンソン氏が失敗した理由として指摘するように性急な引き上げが目に付く。大統領選時に「2020年までに最低賃金を1万ウォンにする」とする公約を掲げた文氏は、大統領就任から1年後、2018年に16.4%、今年も10.9%とわずか2年で3割近くも最低賃金を一気に引き上げ、経済界、特に中小企業や零細業者の反発を買っていた。韓国では、文氏が大統領秘書室長だった盧武鉉政権の時にも最低賃金引き上げを行なっているが、中央日報によれば、「当時は最低賃金水準があまりにも低かったためその衝撃は大きくなかった」という。
今後、韓国だけでなく、日本や欧米でもこの失敗例が論じられそうだが、どちらにせよ、文大統領の政策手腕に疑問符がつく可能性は高そうだ。