「海外バックパッカー」が自分探しの正しい方法ではない

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

先日、次のようなツイートをしました。

人間はゼロから生まれてきます。学校で教養を学び、友達との交流で人間関係を学び、社会でスキルや経験を積みます。しかし、意識しなければ永遠に分からず、そして世界のどこを探しても答えがないものがあります。それが「自分」という対象についてです。いかに知性を磨き、経験を積んでもなかなか「自分」というものは分からないものです。

あなたは自身の才能や能力、適正や価値観を正しく理解できているでしょうか?感受性豊かな若い時分には誰もが通る、「自分探し」という行為。今回は自分探しについてお話をしてみます。

バックパック旅行先で自分はみつからない

リュックサック一つで、世界を旅して回るバックパック。私も昔は憧れたことがあり、「自分探し」をしたい人の気持は良く理解できます。しかし、このバックパックをしても自分はみつかることはありません。経験をせずとも、このことはハッキリと言い切っていいと思っています。なぜなら、自分自身は海外で見かけるお土産のように、その辺の道に落ちているものではないからです。

acworks/写真AC:編集部

よく、「バックパック先で行ったガンジス川で死体が流れてくるのを見て、人生観が変わった」などという表現があります。確かにこうした体験は日本ではなかなかないでしょう。しかし、衝撃的な体験をしたからといって、その体験が後の人生に影響を与え続けるストックとしての価値を生み出すかどうかは別の話です。

「びっくりした!川から人が流れてくるなんて!」という驚きがあったとしても、1年後にすっかり忘れてしまうのでは単なるフローとしての体験でしかありませんから、体験したことで人生が変わることはないのです。

自分探しとは、体験したことでその後の人生に影響を与え続けるストックであるべきです。そうでなければ、「面白い体験をした一日」で終わってしまいます。しかし、「まだ見ぬ自分の才能や価値観を発見した一日」になるなら、それは価値ある体験となります。そうするために必要なのは、海外へ行くことではないのです。

人間の才能や価値観が見つかる場所は「極限状態」

人の才能や価値観が見つかる場所、それは海外ではなく「極限状態」にこそあります。

「50mを30秒以内に走りきりなさい」という条件を与えられて取り組んでも、健常者のほぼ全員が出来てしまいます。このようなゆるい状況下においては、誰しも本気で走ることはないでしょう。そのために他者との差を見出すことはできず、自分は他者に比べて速いのか?それとも遅いのかがまったく分かりません。そして走ることが楽しいと感じるかどうかもまったく分かりません。

しかし、「50mを6秒台で走りきりなさい」という条件ではどうでしょうか?この条件では、参加者のほぼ全員が本気で走ることになります。その中でも、トレーニングをしなければ7秒台の壁を超える事が出来ない人が出てきます。走った結果、周囲を見渡すととても速い人やどうしても7秒を切れない人がみつかるでしょう。その中には腕の振り方、足の動かし方が上手な人もいるはずです。

自分は周囲と比べて、平均的に優れているか?それとも遅いのか?自分の走りはトレーニングにより、さらなるタイムアップが望めるのか?さらには、走ることが楽しいか?タイムを縮めることに情熱を燃やせるのか?などいろいろな事が分かります。

そう、人の才能や価値観が見つかるのは、50mを6秒台で走らなければいけないような、本気を出さざるを得ない極限状態にこそあるのです。

夢破れた時、次の夢が見えてくる

私はまさに極限状態に置かれたことで、自分の才能を発見することが出来ました。

私は20代前半の時に英語を使った会計職につくことを目標に勉強に取り組み、複数の会社勤務を経て30代前半で国際経営企画の仕事に就くことが出来ました。夢を追い続けて10年間、道中には大学や留学先で会計の授業を履修し、会計の資格を取るためにビジネススクールに通い、仕事でキャリアを10年積み上げてたどり着いたゴールでした。10年間かけて到達したゴールに「時間がかかったが、ようやくここまでたどり着くことが出来たな」と嬉しさを感じたものです。

しかし、念願の仕事についてはじめて分かったことがあります。それは「私にはこの職業への適性はない」というあまりにも残酷な事実です。自分より遅れて入社した後輩社員(現在の奥さん)にアッサリ抜かれ、仕事のパフォーマンスは業務外の勉強と、他者より長い労働時間でカバーするという体たらくです。そして何より、このような奮起するべき状況に置かれても、会計という分野にそれほど興味関心や、情熱を持てなかったことです。

それでも同年代の他の人よりかなり高い給与を頂き、恵まれた待遇を得ることが出来ていました。これは会計という職業の持つ強みです。専門性があり、尚且英語力が組み合わさったことで、労働市場での付加価値があったのでしょう。希少性も相まって、私のように適正がない人間が携わらせてもらえる機会を頂けたことは本当に良かったと思っています。

でも、才能も興味もそこまで持てなかったことに気づいたのは、実際に全身全霊を込めて仕事をやってみてからでした。同僚が定時で帰る中、自分は一人毎日22時、23時まで残業をして彼らと同じパフォーマンスを出していました。このとき、「自分は会計に向いていないな」と感じました。

自分探しをするために、海外に行く必要はありません。自分を極限に追い込み、全身全霊で取り組むことで自然に見えてくるものです。また、周囲からの自分への評価も適正というフィードバックをくれます。自分を見つけたい人は、「興味が持てそうな分野にフルコミットする」という方法を推奨したいと思っています。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

■無料で不定期配信している「黒坂岳央の公式メールマガジン」。ためになる情報や、読者限定企画、イベントのご案内、非公開動画や音声も配信します。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。