現代戦は武力戦争だけでなく、テロ戦、情報戦、心理戦、サイバー戦、貿易戦など様々である。米中貿易戦争は北朝鮮の後ろ盾、中国を屈服させ、北の核問題の解決を目指す「新たな戦争」の様相とも言える。
米国は基軸通貨ドルの威力に加えて世界最大の軍事力を持つ超強大国であり、世界最大の産油国でもある。中国は王毅外相が自ら認めた通り「発展途上国」だが、米国の覇権に挑戦したのは虎の尾を踏んだのと同じだ。
5月4日と9日に北朝鮮がミサイルを発射すると、米国はインドネシアで昨年4月に拿捕された北朝鮮籍の貨物船を差し押さえたと発表し、米国領サモアに曳引した。また、暗殺用特殊ミサイルを公開した。特に、電磁気波を照射して敵電子機器の回路を麻痺させるEMP弾巡航ミサイルを実戦配備したことを公開した。
さらに、5月2~8日に南シナ海で日本、フィリピン、インドと合同演習を行い、16日からはインド洋で日本、フランス、オーストラリアとの連合艦隊を組んでおり、英空母も加わる予定で、中国包囲網を強めている。その上、米国は武器、弾薬、戦車・機械化部隊3個師団を重武装できる戦争(備蓄)物資輸送船(USNS)6隻を釜山、浦項、光陽灣に集結させる中、空母2個戦団(1隻は上陸作戦用空母)が半島近海に展開中である。
異例な戦力集中は制裁圧力に加え最大の軍事圧力を強める心理戦なのか、それとも、実際の軍事行動に踏み切るためのリハーサルなのか、予断を許さない。
金正恩は今年末まで米国の勇断を待つと発言した。それはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)搭載、原子力潜水艦(SSBN)を完成するための時間稼ぎだろう。SLBM搭載原潜が完成する日が米国にとってはレッドラインになると考える。
一方、北朝鮮の核が中東のイラン、シリアに流出した場合、イスラエルは国家の死活問題となるので、事前に北潜水艦基地を爆破する可能性が高い。イスラエルは4月13日、シリアのミサイル工場を空爆して北朝鮮技術者など17人を死亡させている。
トランプ大統領は来年後半、再選を狙って全面的な対北軍事行動(外科手術攻撃)に踏み切る可能性がある。今は費用対効果の最大化を狙ってスケジュールを調整、立案中だろう。そうなれば、北の核は金王朝体制の保護より、体制崩壊の火種になる。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員、分析官歴任)
※本稿は『世界日報』(5月23日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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