最近、一冊の本を手にした僕は、日本の行く末に改めて強い危機感を覚えた。『日本銀行「失敗の本質」』という本だ。朝日新聞編集委員の原真人さんが書いた、強烈な問題提起の書である。
原さんの書によれば、衆院総選挙を目前にした2012年11月、安倍晋三首相は、「インフレターゲットを設定し、無制限にお札を刷ることで、円相場を操作する方式に切り替える」と発言したのだ。ところが、当時、日銀総裁だった白川方明さんは、「インフレターゲット」を設けるのに反対だった。金融政策の手をしばることになる、というのが理由だ。
しかし、第2次安倍政権は、経済政策の柱として、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」、いわゆる「三本の矢」を打ち出す。こうした政策を安倍首相に抱かせたのは、いわゆる「リフレ派」であり、その重鎮的存在が、イェール大学名誉教授の浜田宏一さんであった。
その後、「インフレターゲット」に反対の立場を取る白川さんは、2013年2月5日、日銀総裁を辞任する。そして、その後を継いだのが黒田東彦さんだった。黒田総裁はデフレ脱却のために、「年2パーセント」のインフレ目標と、それを「2年」で達成すること、そのために、「これまでと次元の違う金融緩和」を宣言したのだ。この政策は金融市場から歓迎された。株式市場は好調、円安が進む。
しかし、2014年10月31日、日銀は、量的緩和策の大がかりな追加措置を決めた。長期国債の買い入れ額を30兆円増やし、80兆円にするとしたのだ。インフレ目標が達成できないので、焦りはじめたわけだ。
さらに、2016年1月29日に開かれた日銀の金融政策決定会合で、日本で初めて、「マイナス金利政策の導入」が決まった。原さんはこの政策を、「これほどの歴史的な低金利のもとでさえ銀行が貸し出しを増やせないのは、企業の資金需要が乏しいからだ。その根本原因が解消されないのに、マイナス金利政策で働きかけてみても効果は限られる」と批判している。
そんななか、2016年11月、「リフレ派」の浜田宏一さんの発言が、世に衝撃を与えた。「金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなる」「今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ」という内容のインタビュー記事が、日経新聞に載ったのだ。これを原さんは、「浜田氏の『変節』」だとし、遅すぎるくらいだと指摘している。
こうした浜田さんの「変節」を、安倍内閣は厳粛に受け止めることもなく、2018年3月、黒田総裁の再任が決まる。そして、なんと、「異次元緩和の『長期戦入り』」を表明した。つまりは、2013年に、「2年で達成」と言っていた公約が、実現できなかったことを宣言したわけだ。このような金融政策が、日本の未来に負担を増やし続けることは明らかだ。
しかし、暗澹とした気分になりながらも、最近、僕は若手議員に光を見出している。小泉進次郎さん、福田達夫さん、村井英樹さん、小林史明さんら、自民党の若手政治家と話す機会を多く持つようになったのだ。彼らは柔軟な考え方ができるし、上の人間にも率直にもの申す。何より「政治家」という仕事に誇りを持っていると感じられる。
日本が破綻を避けるため、国民が希望を持つために、どのようにすべきなのか。僕は可能な限り、彼らと論議していくつもりだ。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2019年5月24日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。