メキシコのパイプラインから抽出していた盗油が大幅に減少

昨年12月にメキシコの大統領に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)が早急に取り組まねばならない問題のひとつが、石油パイプラインに穴を開けて輸送されている石油を盗む犯罪を取り締まることであった。

PEMEXのサイトでは輸送経路を誇示していたが…(pemex.com:編集部)

18年ほど前から行われているとされているこの犯罪による昨年の損失額はおよそ663億ペソ(3713億円)にも上るというもので、しかもこれまで毎年その規模が拡大しているというのである。理由は麻薬組織カルテルがそれを重要な収入源のひとつとしているからである。そのために、カルテルはメキシコ石油公社(PEMEX)の内部から情報を得るという意味もあってPEMEXのスタッフおよそ100人程度がこれまでこの盗難に協力していたということも明らかになっている。その一部の者は警察に逮捕もされている。(参照:elnuevoherald.com

そこでアムロがこの撲滅のために取った対策というのが、パイプラインを使って石油を輸送するのをできるだけ減らし、その代わり輸送をタンクローリー車と鉄道を使うという手段に切り替えることにしたのである。

昨年、パイプラインで輸送された石油の量は日毎に119万バレル分に相当する量であった。それを今年1月には61万8000バレル分まで下げ、現在4月は幾分か回復させて90万バレル分で調整しているという。しかも、4000人規模の軍隊と連邦警察をパイプラインの重要なポイント箇所に派遣させて監視の強化を図った。更に、1万個の監視装置も設置した。(参照:ntn24.com

その成果が今年1月から徐々に観察できるようになっているという。昨年だと日毎に平均して5万6000バレル分が盗まれ、11月は最高の8万1000バレル分を記録した。アムロが大統領に昨年12月に就任すると早速この対策を実行に移しということもあって、昨年12月は日毎2万3000バレル分まで減少。そして今年1月は1万8000バレル、2月9000バレル、3月8000バレル、そして4月に入って中旬までで4000バレル分という具合に減少の一途を辿っているという。

そしてタンクローリー車は納品を急ぐために公的な入札は行わず、メキシコで1社と米国3社に1億ドル(110億円)を投じて合計612台を発注。そして現在タンクローリ車は運行している。(参照:zocalo.comntn24.com

今のところ石油の盗難削減は順風満帆に展開されているが、昨年は2600台のタンクローリ車がカルテルによって盗まれているということから警戒を要する。特に、ミチョアカン、グアナフアト、プエブラの3つの自治州は最も危険地域だとされている。しかも、盗難は年々増加しており、2015年は1200台、2016年は1963台そして2017年は1820台で、2018年が2600台ということだ。彼らが盗む手段には多くの場合、路上で走行中のタンクローリー車を通行止めをしてそれを渡すように要求して脅すのである。だから道路上で周囲に走行している車がいなくなるとタンクローリ車の運転手は緊張するそうだ。
(参照:elsoldemexico.com

例えば、アレハンドロ・ゴメス(29)は4年前からガソリンの輸送をしているが、グアダラハラの道路を運転していて周囲に走行している車がいなくなると身体に震える感じるようになるという。3車線の路上で両サイドから同時に車が近づいて来ると血が頭に上るそうだ。そして、彼の横を通り過ぎて行った時にはほっとするという。

31000リットルのガソリンを積んで運転しているイバン・サンチェスも運転していて不安になるそうだ。ガソリンは金になるから狙われたらどのような手段でも獲得するまでやって来るということで恐怖を感じているそうだ。

政府はタンクローリ車に護衛をつけるといっているが、大半はそれが実行されていないのが現状だという。
(参照:animalpolitico.com

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家