欧州連合(EU)加盟国28カ国で23日から26日にかけ、欧州議会選挙(定数751)が行われた。ブリュッセルからの情報によると、欧州議会でこれまで過半数を占めてきた「欧州人民党」(EPP)と「社会民主進歩同盟」(S&D)の2会派は議席を大きく減らし、過半数割れとなった一方、欧州懐疑派、ポピュリズム派政党が飛躍したことから、欧州議会が機能できなくなる状況が予想される一方、今秋に予定されている欧州委員会の指導部人事にも大きな影響が出てくることが必至だ。
EPPは179議席(2014年比で38議席減)、S&Dは150議席(36議席減)で両会派を合わせても過半数に達しない。一方、飛躍が予想された極右政党、ポピュリズム派政党の「国家と自由の欧州」(ENL)はイタリアやフランスで得票率を伸ばし、2014年の36議席から58議席に議席を増やしたが、大飛躍とまではいかなかった。第3会派はリベラル派「欧州自由民主同盟」(ALDE)で107議席だ。いずれにしても、欧州懐疑派は議会議席の3割を占める予定だ(いずれも暫定結果)。
ここではEUの盟主ドイツの社会民主党(SPD)の後退ぶりを紹介する。欧州議会選では社民党は得票率15.8%と前回(2014年)比で11.5%減と大幅に得票率を失う一方、同日に行われた独北部ブレーメン州議会選でも戦後からキープしてきた第1党の地位をキリスト教民主同盟(CDU)に奪われるなど、敗北が続いた。
ドイツの欧州議会選の結果は、キリスト教民主同盟(CDU)の得票率28.9%(6.4%減)、SPD15.8%(11.5%減)、緑の党20.5%(9.8%増)。左翼党5.5%(1.9%減)、「ドイツのための選択肢」(AfD)11%(3.9%増)、自由民主党(FDP)5.4%(2%増)だ。
SPDは連邦選挙を含む選挙と呼ばれる選挙で得票率を落としてきた。欧州議会議長を5年務めてきた希望の星、シュルツ氏が党首に選出されたが、SPDの低迷傾向にストップをかけるどころか、さらに悪化させて1年余りで党首ポストをナーレス現党首に譲った。
ナーレス党首も党の低迷を止めることはできず、SPDは昨年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、極右党AfDの後塵を拝したばかりだ。連邦議会選後、SPDは野党に下野する予定だったが、結局、メルケル首相の誘いに乗って第4次メルケル政権のジュニア政党の地位に甘んじることになった経緯がある。
欧州議会選とブレーメン州議会選の結果、社民党内でCDU/CSUとの大連立政権の解消を要求する声が聞かれる。同時に、党内でナーレス党首の責任を追及する声が出てくるのは必至だ。シュルツ前党首らがナーレス党首落としを画策しているといった“党内クーデター説”すら流れている。
SPDが大連立から離脱すれば、CDU/CSUとSPDから成る第4次メルケル大連立政権は解消に追い込まれ、2021年の任期満了まで首相を務めると表明してきたメルケル首相自身も首相ポストが危うくなる。
一方、SPD内の青年社会主義者グループ(JUSO)連邦議長、ケヴィン・キューナルト氏は週刊誌ツァイトとのインタビュー(5月1日)の中で、「大企業の集産化」を提案し、ドイツの政界で大きな波紋を投じている。キューナルト氏の集産主義では、不動産の私有禁止、大企業の国営化などが実施され、その内容は共産主義的計画経済を想起させる。SPDのキューナルト氏は真剣に国民経済の刷新案として考えているというから、同国産業界も驚いたわけだ。(「「独大企業の国営化」発言の衝撃」2019年5月6日参考)。
また、社民党幹部でシグマ―ル・ガブリエル前外相(59)は25日、政界からの引退を表明している。社民党の行く末に希望を感じなくなったからではないか。社民党内に路線の対立が先鋭化していることが想像できる。
ちなみに、シュレーダー元首相は、戦後のドイツの労働市場、社会保障制度を大胆に改革し、左派イデオロギーにとらわれない現実路線で国民の支持を得たことがあったが、社民党には第2、第3のシュレーダー氏のような政治家の登場が願われるわけだ。
社民党の低迷傾向はドイツだけではない。隣国オーストリアの社民党(SPO)でも同じことがいえる。ファイマン首相(当時)が2016年5月辞任し、実業家のケルン氏が新党首、首相に就任したが、17年10月の総選挙で現クルツ首相が率いる国民党に敗北し、政権を失った。野党に下野したケルン党首は18年9月、突然、政界から引退を宣言し、レンディワーグナー女史(前政権で保健相歴任)が女性初のSPO党首に選出された。SPDとSPOは国こそ違うが、同じプロセスを歩んでいる。
クルツ政権の連立パートナー、極右自由党のシュトラーヒェ党首のイビザ島スキャンダル直後に実施された欧州議会選で社民党は前回比で0.5%だが得票率を失ったのだ。自由党が不祥事に直面し、クルツ首相が率いる中道右派国民党も自由党との連立政権で批判にさらされている時に迎えた欧州議会選で、有利なはずの社民党は有権者の声を吸収できず、得票率を前回より失ってしまったのだ。相手側の失点を自党の飛躍のチャンスにつなげられなかったわけだ。
参考までに、オーストリアの欧州議会選の暫定結果は、国民党は35.35%で前回比で8.37%増、社民党23.59%(0.5%減)、自由党18.09%(1.63%減)、緑の党13.05%(1.48%減)、ネオス8.15%(0.01%増)だった。投票率50.62%(前回45.39%)。
ドイツの政界では、長期政権を誇ってきたメルケル政権の終わりが始まっている。昨年12月の党大会でメルケル首相の後継者に選出されたアンネグレート・クランプ=カレンバウアー党首はメルケル色を振るい落としながら独自の政策を模索してきた。一方、SPDは党首は代わったが、党内指導部の政策不一致が目立ち、新鮮さにも欠ける。SPDは党結成以来、最も厳しい状況に直面している。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月28日の記事に一部加筆。