欧州の極右党はコンセンサス政治の所産?

欧州議会選挙(定数751)が23日から26日にかけ、欧州連合(EU)の28カ国の加盟国で実施された。その結果、予想されたことだが「欧州人民党」(EPP)と「社会民主進歩同盟」(S&D)の2大会派がこれまで握ってきた議会の過半数を失う一方、EU懐疑派やポピュリズム派政党が議席を増やしたことから、欧州議会の運営が一段と難しくなる。

フランスの極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首(「国民連合」公式インスタグラムから)

ところで、オーストリアの日刊紙プレッセは28日付でベルギー出身の政治学者、ロンドンのウェストミンスター大学のシャンタル・ムフ教授(Chantal Mouffe)とのインタビュー記事を掲載していたが、同教授は、「政治の政界では意見、政策の違いが実質的な要素であり、その敵対、反目(Antagonism)を排除しようとするコンセンサス政治は最終的には民主主義を害し、極右党や極左党を生み出す」と主張している。

例えば、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と「社会民主党」(SPD)の2大政党から成るドイツの第4次メルケル連立政権は民主主義政治のエッセンスを失う一方、それを拒否する極右政党(「ドイツのための選択肢」AfD)が台頭し、国民の支持を得てきたわけだ。

欧州では久しく、左右の政治信条を有する2大政党が政界を主導し、選挙の度に相互が入れ替わって政権を掌握したり、2大政党から成る大連立政権が生まれてきた。大連立政権は「国民の過半数以上を代表し、政治の安定化に寄与する」と歓迎されてきたが、ここにきて2大政党のコンセンサス主導の政治に、国民の間に物足りなさ、不満が出てきた。その結果、欧州全土で極右党が生まれ、ポピュリズム派指導者が出てきたというのだ。

ムフ教授は、「アンタゴニズム(敵対主義)の排除こそ民主主義の発展と受け取られてきたが、実際は有権者の選択肢を制限することになった。だから、社会の中でもコンセンサス政治に自分の思想や願いを反映していないと感じだす国民が出てきたわけだ」と説明する。

ドイツのSPD党員の間にも、「メルケル政権では我々の党の政策を実施できない。譲歩と妥協を強いる大連立はSPDにとってマイナスだ」という声が聞かれる。党の政治信条を維持したいと考える党員の中に大連立政権反対の声が高まるのは自然だろう。SPDの低迷現象は大連立政権のコンセンサス政治に対する有権者の拒絶反応といえるわけだ。

ムフ教授によれば、そこでコンセンサス政治を拒否し、自身の政治信条の実現を声高く主張する極右党が生まれてきた。極右派は移民政策では反移民、外国人排斥をキャッチフレーズにして国民に支持を求める。一方、欧州の左派政党は、「移民政策ではネオ・リベラルなユートピアを主張して苦戦している。左派党に必要なことは有権者の心をとらえる左派ポピュリズムだ。欧州の左派は中道に関心を寄せるあまり、国民の関心事を忘れている。左派関係者はなぜ国民は極右党を支持するのかを考えるべきだ」という。

フランスのジャン・リュック・メランション氏の左翼政党から今月、アンドレア・コタラック議員がマリーヌ・ルペン党首が率いる極右政党の「国民連合」に移った。極右派と左派政党間の壁が一部なくなってきているのだ。

ちなみに、マリーヌ・ルペン党首は、「自分は右派でもない。左右の政党には多くの共通点がある。両党とも民主主義を取り戻そうとしていることだ」と説明している。

ムフ教授は、「フランスの左派政党にはジャン・リュック・、メランション氏のように、移民問題で国境の閉鎖などハンガリーのオルバン首相のような移民政策を主張する政党が出てきた。移民政策では、国民の関心、その保護をまず考える左派ポピュリズムが重要だ」と指摘している。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月30日の記事に一部加筆。