参院選東京選挙区(定数6)の情勢が混沌としてきた。ここにきて、国民民主党がJAXA職員の水野素子氏(49)の擁立を発表。立憲民主党も、すでに公認済みの元都議、塩村文夏氏に加えて、元朝日新聞記者の山岸一生氏の擁立を発表するという強気の2枚看板戦略に出た。
さらに筆者の取材では、日本維新の会が来週にも候補予定者を発表するとの情報もあり(※1)、維新も参戦すれば、主要政党だけで9人の候補者が定数6を争うという大混戦。サッカーW杯の「死のグループリーグ」にも例えられる全国最大の激戦区になるのは間違いない。
(※追記1日7時:維新は音喜多駿前都議を擁立する方針。)
ただ、「死のグループ」といっても、サッカーW杯の場合は、王者経験者のブラジルやイタリアといった頭抜けた存在はいるものだ。同じくこの選挙区にも、五輪相などを歴任した自民・丸川珠代氏、公明党代表の山口那津男氏の2人は知名度、過去の得票実績からして当確にもっとも近いだろう。実質的に、残りの4枠を巡って、現職3人と新人4人の計7人が激しく椅子を争う構図となるはずだ。
東京選挙区は筆者にとって選挙インサイダーを初めて経験し、苦い敗戦を喫しただけに思い入れもある。特に今回の改選組はその時の競合だったことから、非常に興味深く、選挙本番まで何度か書きたいと思う。今回は情勢調査の数字等は抜きに、フラットに定性面から分析したものを書く。具体的には政策理念的な視点からポジショニングしてみた。
まずは、毎度おなじみのマトリックス。縦軸を政府の大小、横軸を保守・リベラルで区分けしてみた。
今の日本政界の各党の縮図をみているようだが、予想通り、左下の「リベラル」×「大きな政府」側にポジショニングが集中している。政治活動未経験の立民・山岸氏と国民・水野氏は、党の公約および数少ない政見情報からの推測が多いので「?」としたが、こうしてみると、国民民主党は、地方では野党共闘路線を採りつつ、首都東京では自民党に代わる保守中道政党を志す「本音」が見えている。
国民も維新もN国も注目する「ブルーオーシャン」
国民の動きについて以前筆者は、同党との合併前に自由党を離党した現職・山本太郎氏との関係性が本当に切れたのかを疑っていたが、独自候補擁立により「偽装離婚」でないことが確定した。それも、左派色の強い候補予定者ではなく、JAXAで国際交渉業務などで活躍した女性を出してきたところは注目に値する。
国民民主がこうした図解を明確に意識したとまでは思わないが、右上のゾーンは「ガラ空き」なのは感覚として持っているのは間違いない。このマーケットのペルソナとしては、首都在住の無党派ビジネス層、かつての小泉政権の構造改革路線、最盛期の小池知事、橋下維新、旧みんなの党のブームを支持したような層であり、ここを意識し、差別化を図ったつもりだろう。
票数で言えば、2016年都知事選に小池氏が291万票を獲得。これには自公民の支持層も流れていたが、2013年参院選で維新・みんなが都内で獲得した比例票でいえば、合わせて約130万ある。ちなみに、最近、話題のNHKから国民を守る党(N国)が都市部にリソースを集中して選挙活動をしているのは、それらの新興政党票に着目しているからだ。
話を本筋に戻すと、実際、水野氏の発表後、筆者がある政界関係者に聞いた話によれば、玉木代表が他にもアプローチをかけていた人物の中には、この右上のゾーンに相当すると思える人もいたようだ。東大法学部出身、JAXA幹部という経歴は申し分ないし、民主党の勢いが10年前の頃であれば上位当選もあり得ただろう。ただ、先日の足立区議選で国民公認の現職が落選。知名度不足に加え、党勢の伸び悩みを考えると、厳しいスタートであることには間違いない。
また、候補者を発表していない維新が誰を擁立するのかも注目される(※追記1)。維新は2013年、16年とこの選挙区で当選者を出せず、東京の参院での議席確保は宿願だろう。前回の田中康夫氏は知名度は抜群でありながら、図で言う左側のゾーンに属し、大阪の行政改革のイメージから、右上ゾーンの支持者が多いところで田中ファン、維新ファン双方の困惑を招いた感はあった。
一部の票が「議員歳費ゼロ」の公約を打ち出し、維新の御株を奪う究極の小さな政府志向を見せた横粂勝仁氏に流れた可能性はある。横粂氏は当初泡沫候補と予想されたが、30万票を獲得する大健闘。田中氏の票を削る形となったとみる政界関係者は少なくない。今回、維新は大阪ダブル選挙の圧勝の余勢を駆るように見えたが、丸山議員の発言問題で一転ピンチに。足立区議選も唯一の公認候補者が次点に終わったが、巻き返しはできるか。
知名度の格差は激しいが、男女比は“均等”
もう一つ、政府の大小の縦軸を男女に置き換えてみよう。性別も、有権者の半分に当たる女性票の動向を占う上で重要なポイントだ。
知名度については元有名俳優の現職、山本太郎氏から、立民・山岸氏、国民・水野氏のような無名の新人もいるが、今のところ男女比についてみれば「4:4」とバランスは取れている。その点、共産・吉良氏、立民・塩村氏はリベラル×女性路線で、ほぼ同世代、政治家のキャリア年数も同じくらい(共に初当選が2013年)と、左派票の激しい争奪戦が繰り広げられるとみてよい。
一方、このマッピングで気づくのは、右上の「男性×保守」のゾーンが空いている点だ。維新がここを狙ってくるのかどうか(※追記2)。あるいは、前回の横粂氏のように無所属でそれなりの知名度がある人物が彗星のように名乗りを挙げるのか、ここは興味深い。
あすから6月、衆院選とのダブル選挙の観測もある中で、全国最大の“死のグループリーグ”に向けた各党の動きを引き続き注視していく。
(※追記1日7時②:維新が擁立方針を固めた音喜多氏は、上記のポジショニングを狙ってきたといえよう)