「埋蔵金探し」の朝日と豊中市議、森友大阪地裁判決にガックリ!

高橋 克己

「犬が人間を噛んでこそニュース」、5月30日15時15分の朝日新聞デジタルの速報記事を読んでこの語が筆者の頭を過った。森友土地の大阪地裁判決を報じる『森友への国有地売却額不開示、国に賠償命じる判決 地裁』との見出し記事が、同時に判決が出た「値引き理由不開示は適法」には全く触れていないからだ。

「勝訴」「不当判決」を掲げる木村氏(右)ら(Facebookより:編集部)

さすがに翌31日6時発の記事では、森友問題に社運を賭ける朝日らしく判決文まで掲げて全貌を報じた。が、福島瑞穂氏らとの画像を晒していた豊中市議が訴えた件のうちの「売却価格不開示」には、当初から万人が万人おかしいという感想を持っていたはずで、国が負けることに何のニュース性もない。

それが証拠に国は提訴されて直ぐ値引きして売却していたことを公表し、近畿財務局も同市議に売却額を開示した。ところが市議は訴えの内容を「売却価格の開示」から「不開示による損害賠償請求」に切り替えたという。元徴用工訴訟と同じ慰謝料請求という訳だ。

筆者は市議のこの執拗さの源泉こそ知りたいし、判決ではむしろ「値引き理由不開示」に地裁がどういう判断を下すかの方に100倍ニュースバリューがあると思う。だのにこちらは適法とされたのだから、報じたくない気持ちになるのも頷ける。

だが市議は「森友問題は、誰もきちんと責任を取っていない」として控訴を検討しているという。市議のこの姿勢に朝日も、これでまた紙面が埋められるとホッと胸を撫で下ろしていることだろう。

森友問題での朝日とこの市議のあくまで執念深いタッグを見ていると、筆者は徳川埋蔵金探しやフィリピンの山下財宝探しのことをいつも思い出す。まあ当事者が、何か出て来るに違いない、と信じてやっていることだからめげずにいつまでも続けたらいい。

そこで、朝日が折角判決文を載せてくれているので、大阪地裁がどんな理由で「値引き理由不開示」を適法としたのかを見てみたい。記事の当該部分を以下に引用する。(太字は筆者)

ごみなどにかかわる特約条項の一時不開示は違法か

特約条項には、森友学園が小学校敷地として取得した土地に、地下数十センチから3メートルまでの間に廃材やごみなどがあり、鉛やヒ素が含まれることが具体的に記されている。開示されると、これらを了承して買ったことが具体的に明らかになる。

土壌汚染があった土地の小学校という印象を保護者に与え、有害物質で健康を害する懸念を生じさせるおそれがある。浄化後でも強い心理的嫌悪感を与える。小学校経営における競争上の地位や、事業運営上の利益を害するおそれがある。

不開示情報とした判断には合理的な根拠があり、違法とは認められない。

この特約条項とは、森友土地に瑕疵があった場合に将来生じるかも知れない責任を、売り手(国)から買い手(森友)に移す特約で、「瑕疵担保責任条項」と呼ばれるもの。詳しくは「今更だが、森友土地と瑕疵担保責任」の「(上)」「(下)」をお読み願いたいが、土地売買やM&Aでは必須の極めて重要な条項だ。

判決文には風評の類のことしか書かれていない。だが、軟弱地盤に起因する建物の建て直しなどを惹起する可能性だってゼロとはいず、その場合、値引き額の8億円では済まないかも知れない。いずれにせよ土地や企業の瑕疵に起因する将来の損害のリカバーに要する金額を見積ることは極めて難しい。

問題の国有地跡地にあった森友学園の小学校校舎(開校は頓挫)=Wikipediaより:編集部

ではどのように決まるのかといえば、売り手と買い手の話し合い以外にない。売り手が売りたい金額と買い手が買いたい金額に重なる部分があればそこで決まるし、重ならなければ破談になる。森友土地の場合、8億円が重なる金額だったということで、ゴミの量はいくつかある要素の一つに過ぎない。

豊洲の土地であろうが、鴻海のシャープ買収であろうが、孫正義の数多のM&Aであろうが、その金額は須らくこうした交渉で決まる。後は株主代表訴訟などにならないように、それらしい理屈をつけるか、あるいは第三者に査定を依頼する訳だ。そして多くの場合は類似の取引金額の近辺に落ち着く。

そういう意味で森友土地では、近畿財務局が入札にしなかったこと、そして外部ではなく大阪航空局に査定させたことの二つには抜かった感がある。しかし、だからといって不法とまではいえないし、しかも森友土地は似た地歴の隣の野田公園や近隣の給食センターと比べて実質的に高い価格になった。

よって、こちらの裁判で原告が負けるのは至極当然なのだが、夢を追うのは自由なので精々財宝探しをお続けになるとよい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。