IHI、トランプ発言に喜べぬ航空エンジン事業(日本経済新聞)
「日本は(米ステルス戦闘機の)F35を105機買う。日米両国の危機への対応力は増すだろう」。日本の防衛関係者は28日のトランプ大統領の発言を半ばあきらめ顔で聞いていた。この話はすでに昨年12月に出ており、米政府の提示額や納期を日本側が受け入れる「対外有償軍事援助(FMS)」に基づく。2019年度のFMSによる調達額は予算ベースで7013億円と18年度から7割増える見通しだ。日本の対米黒字を問題視するトランプ大統領への配慮からか日本側は購入拡大を決めており、エンジンメーカーなども含めた防衛関係者は危機感を募らせている。
防衛省向け航空機エンジンを手掛けるIHIはこのあおりをもろに受ける。民間向け航空機エンジンが主力の航空・宇宙・防衛事業の19年3月期の売上高は4922億円と連結全体の3割を、営業利益は464億円と同6割を占め、会社の稼ぎ頭だ。防衛関連の売上高はこのうち1000億円程度だ。IHI側の試算では、FMSの影響などで今後数年でこの防衛関連の売上高が1割前後減る可能性があるという。
率直に申し上げれば、IHIの企業戦略がいい加減ということです。
根っこもないのに花を咲かせようというようなもの。
そもそもジェットエンジンでは外国有力メーカーの下請にしか過ぎず、これまで自衛隊機用のエンジンもほとんどがライセンス品。それでいて、いきなりGEやPW、RRを凌ぐ戦闘機用戦時を開発しました!採用してくれというのは普通に考えれば眉唾な話とわかるでしょう。僅かな努力と予算でそんな「夢の戦闘機エンジン」ができれば外国メーカーも苦労はしません。
そもそもIHIは独立したジェットエンジンメーカーとしてやっていくつもりもありません。
哨戒機P-1のエンジンにしても、これをもとに商品化して、独自の民間機用エンジンの開発、販売を軌道にのせて、ゆくゆくはGEやRRに追いつくようなエンジンメーカーになる(あるいはスネクマあたりに追いつくとか)、という野望があればいいのですが、それはない。
結局あれもP-1専用であり、その後のビジネスの発展性がない。単に税金を喰った話です。
しかもあの機体で4発ですから、整備に手間やコストがかかります。これが民間機用のエンジンとして世界中に売れれば、信頼性も高まっていったでしょう。また生産や整備のコストも向上するし、なによりIHIのエンジンビジネスが拡大して、雇用と税収も増えたでしょう。現状タックスイーターに過ぎません。
自衛隊機用のエンジンを開発するのであれば、それをもとにして民間機用あるいは市場でうるエンジンを作らないとビジネスとしての持続力も維持できません。率直に申し上げればP-1のエンジンだって量産試作みたいなものです。
MRJの苦戦をみれば日本の防衛産業の「世界先端」とか「高い技術」がどれだけ看板倒れかわかるでしょう。MRJにしてもゆるい防衛省というユーザーしか相手にしてこなかった。市場で勝負したらどうなったかは言うまでもないでしょう。それが日本の防衛航空産業の実力です。それを謙虚に自覚する必要があります。
本気で独立したジェットエンジンメーカーになる気がないのに、「先端の戦闘機エンジンを作れます」なんぞという夢を語って、税金を浪費してほしくないものです。
本気で目指すならば、まずは国際共同開発に参加するとか、また小型、中型エンジンの開発販売をやるべきです。それをやらないのは経営リスクを取りたくないからでしょう。防衛需要であれば取りっぱぐれはありません。そういう根性でやってまともなエンジンが開発できるわけがありません。
自助努力はしない、世界の市場に挑戦して生き残りをかける気位も戦略もない企業に税金を投入するのは、無駄使いでしかありません。
■本日の市ヶ谷の噂■
90式戦車の砲塔の安定化装置の開発は防衛庁(当時)と厚労省の医療用機器の開発とで予算を二重取りとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年6月2の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。