「正社員で残業なしの会社に転職希望!」は正社員をなめている発言か?

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

「正社員で残業なし、は都市伝説?」という趣旨のトピックがガールズちゃんねるに立てられ、話題になっています。私は会社員も人を雇う経営者も経験しましたので、この話題について両者の立場を踏まえて思うところを述べてみようと思います。

ついでにTwitterに次のようにつぶやいてみました。

写真AC:編集部

お話の全容

まずはトピックの全容を見てみましょう。

転職活動中のです。

私は、とにかく就業時間(通勤含めた拘束時間)と休み(有給の取りやすさ含めて)を重視しています。

雇用形態は、社員を希望です。

ある求人で書類選考→面接の流れの所があって、正直に私の希望を履歴書に書きました。(繁忙期などしょうがない場合以外、基本的に残業はあまりできません・有給も取りたいので、それが可能な環境を望みます、など)正直に書いたので、不採用でも結構です、と書きましたが、面接に呼ばれました。

でも、その希望ならパートとしてしか採用できない、社員希望でそんなのどこも採用貰えないのでは?と言われました。

私が社会人として甘えてるのでしょうか?

引用元:ガールズちゃんねる「社員希望で、定時上がり希望なのはダメ?」

このトピックに対しての回答は次のように概ね、否定的なもの、肯定的なものと賛否両論といった具合です。

「正社員舐めてんのかな?  自分でミスしての後処理も定時で上がんのかな? 」

「それで受け入れてもらえる企業を探すしかない」

「そんなことないと思いたいけど、そうなってしまうのが日本の企業だよね… 本来定時や有休取得なんて当たり前のことなのにね。 なんのための就業時間、なんのための有休なんだか。」

実現可能性は業界と職種による

「(繁忙期を除き)残業ゼロの正社員職があるか?それともないか?」という問いについては「ある」というのが答えです。なぜなら私もそうした残業ゼロの正社員を何社も経験しましたし、今の経営している会社もよほどの緊急事態がない限り、正社員・パートは残業ゼロで退社してもらっているからです。どうしても残業をする場合でも、原則1時間は超えないように伝えています。

「正社員で残業なし」という仕事につくなら、業種と職種を選ぶ必要があります。グローバルウェイが発表した「30代の残業が少ない企業ランキング」によると、残業が少ないのはメーカーに多く、キャノン・本田技研工業・リコー・NEC・富士通といった国内の大手メーカーが並んでいます。また、メーカーと一口に言っても「大手」ということが重要で、少数精鋭で多くの業務をさばく体制だと、誰かが休むと全員にダイレクトにしわ寄せがいくことで、突発的な残業が発生します。大手ですと社員数が多く、業務も細分化されています。そのため、他の人の休みの影響は中小零細企業ほど大きくはありません。

また、その中でも「総務、経理、法務」などの管理部門については、繁忙期を除けば比較的安定的に残業が少なめの傾向があると言えるでしょう。なぜなら、こうした部署はコスト部門であり、残業をしても利益に寄与するどころか、コスト増になるだけなので「残業はさせたくない」というインセンティブが経営層に働くからです。

トピ主は大手メーカーの管理部門への就職が良いかもしれません。私自身、過去に外資系メーカーのファイナンス部門で働いている時は、閑散期は毎日定時上がりで17時45分に会社を出ていました。決算期、とりわけ年次決算の1月は忙しかったですが、それ以外の月は月次決算期を除けば毎日定時が当たり前でしたね(ただし、その後は国際経営企画へ部署異動して残業過多に変わったのですが…)。

「正社員で残業なし」は能力が必要

ヒマを持て余している会社で働くなら別ですが、正社員という業務に責任を持って取り組む立場で、尚且つ残業なしで済ませるには、多くの業務を素早く、そして計画的に遂行する高い能力が必要です。

仕事は何が起こるか分かりません。自分が十分な準備を持って進めていても、取引先や顧客の都合でトラブルが持ち込まれるのは日常的にある話です。そんな不確定性を上手にハンドリングし、定時時間中に完遂するには日々、変動する状況から必要な情報を掌握し、随時計画をアップデートし、定時までに終わらせる力が求められます。必要な結果を定時までに出すことが出来なければ、当然残業となります。

また、有給を取得するとその分業務は自分のところで止まってしまいますから、会社の業務に影響が出ないように先を見越して対応するスケジューリングする力も必要です。

「残業したくない」という願望は間違いとは思いません。ですが、自分の能力が業務に追いつかなければ、残業をしてでも終わらせることが正社員は求められていますから、そこをトピ主が理解できているかどうかが重要なポイントとなるでしょう。一部から「正社員をなめるな」という批判を受けてしまったトピ主ですが、「残業はしたくない」ではなく、「不要な残業はしたくない」といえば結果は変わったかもしれません。

未だに多くの会社が「残業は美徳」「みんなで一緒に残業」という文化が残っています。そうした文化を持たない会社を探しているなら、「残業はいや」ではなく、「責任を持って業務は完遂する。それに必要な知識やスキルはこれだけある。だが、不要な残業はしたくない」と面接官に伝えることで、彼らの心象も悪くならないのではないでしょうか?

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。