最近「当ブログで内部監査に関連するエントリーが多くて嬉しく思います」といったメールを頂戴するようになりました。また、「経営監査など非現実的であり、そのような意識で内部監査を見ている経営トップなどいない」とご異論をいただくことも増えました。ということで(?)、昨日は内部監査機能を内部監査部門以外で発揮しておられる企業の例をご紹介しましたが、本日は私が社外監査役を務める大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)の例を(守秘義務に反しない範囲で)ご紹介します。ご承知のとおり、大阪万博、IR構想により、大阪メトロも鉄道を安全に走らせるだけの会社ではなくなりました。
ところで、月刊監査役の最新号(2019年6月号)では、証券取引等監視委員会委員の引頭氏のご論稿と明治大学の柿崎先生のご論稿が、いずれも監査役の経営監査の重要性について指摘しておられます。モニタリングモデルの取締役会を目指す企業が多いとはいえ、マネジメントモデルで運用されている企業が多いのが現実であり、経営に重大な影響を及ぼすリスクが顕在化するケースでは監査役会(監査委員会)こそ「経営監査」を通じて重要な役割を担う必要がある、とのこと。
私が社外監査役を務める大阪メトロの監査役会は会社法上は常勤1名、非常勤社外2名で構成されていますが、実態としての監査役会は監査役3名と専従スタッフ5名で構成されています。スタッフは部長級のチーフ1名に30代、40代の優秀な社員が数名。私は「監査役スタッフ」が存在する会社の社外監査役に就任したのは今回が初めてですが、この1年の監査役としての活動を通じて、専従スタッフが4〜5名も存在する場合、監査役会から見える会社の風景がこんなにも違うのか、と驚いております。先日、私から会計監査人に申し上げましたが、「これだけ監査役スタッフが充実している場合、監査役と会計監査人との連携の在り方についても、少し見直したほうがいい」と、素直に思います。
なんといってもスタッフを通じて経理部や内部統制室、内部監査部門が何を考え、何を優先して業務を執行しているのか、社長は内部監査や内部統制に何を期待し、何を優先価値とみているのか、タイムリーに理解できます。グループ会社の状況もしかり。常勤監査役ではおそれ多くて(?)形式論になりがちな「内部監査部門と監査役の連携」も、スタッフによるコミュニケーションではホンネが語られることが多いので助かります。
私のようにサラリーマン経験のない者からすると、社長の指示命令は当然のことながら一般社員にまで浸透するものと(安易に)思っていましたが、現実にはそんな甘いものではありませんね。実際には、それぞれの小集団において、指示に従うべき事項と(集団で従うべきかどうか熟考するために)一部ペンディングにしてしまう事項を選りすぐる、つまり指示命令はかならずしも現場に徹底されるわけではない、ということを監査役実務を通じて痛感します(これは、他社の社外役員の経験からも認識しました。だからこそ職務分掌や権限と責任の明確化が必要とされる)。
また、私が内部統制に詳しい専門家として、ご依頼を受けて提言するのは「部分最適」でして、その「部分最適」が果たして「全体最適」に資するものなのか、それとも障害となるものかは、長年当該会社に勤務する監査役スタッフの話を聴いてみないとわからない。つまり「経営監査」というものは、全社的リスクマネジメントを提言する前提となる「個々の組織における場の空気」を認識したうえで実施しなければ、経営陣に腹落ちするものにはならないと思います。なるほど、経営者が一度腹落ちすると、「モノが言える監査役」としての監査環境が整備されてきます。
大阪メトロの監査業務を通じて、本来的には内部監査部門が担うべき経営監査機能の一部は「監査役スタッフ」が担っているのでありまして、昨日の村田製作所でもそうですが、要は「あるべき内部監査機能」をどこの部署が担っているのか・・・という点は、各企業それぞれ検討しておく必要があると考えております。先にご紹介した柿崎教授のご論稿では、最近の米国では、経営監査部門が極めて重視される時代になったとのことですが、日本でも「利益につながる内部監査」を模索する企業も増えてくるものと思います。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。