ハンガリー遊覧船沈没:ドナウ川は今も青く美しいか

「ワルツ王」と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世(1825~1899年)が世界的に有名なワルツ「美しき青きドナウ」を作曲したのは彼が41歳の時だった。その曲に詩人ゲルネルトが「ドナウよ、美しく青いドナウよ、谷を越え、牧場を越え、静かに流れる」といった牧歌的な詩を付けた。

ウィーンから見た“美しき青きドナウ川”の風景(2013年4月26日撮影)

ところで“青きドナウ川”とうたわれたが、ドナウ川が青いということはほとんどない。快晴の日、空の色が水面に映って青くみえることはあるが、実際は青ではない。

ドナウ川は、スイス山岳地域、ドイツのバイエルン、オーストリア、ハンガリー、旧ユーゴスラビア、ルーマニア、そしてブルガリアを経て黒海に流れこむ。全長約2780キロの国際河川だ。ドナウ川流域には約8100万人が住み、貴重な水源となってきた。

なぜ、今ドナウ川か、といえば、先月29日の夜、ハンガリーのブタペストで小型の遊覧船がドナウ川を渡っていた時、大型のクルーズに衝突され、韓国人の観光客31人とガイド2人、ハンガリー人乗務員2人の計35人が乗っていた遊覧船は沈没。7人の韓国人は救助されたが、他は行方不明という事故があったばかりだ。韓国日刊紙「セゲイルボ」は5日、「ドナウ川は今も青く美しい」という慰霊のコラムを掲載していた。

事故直後、韓国から康京和外相が現地入りし、行方不明者の捜査などをハンガリー側と連携指揮した。事故当日のドナウ川は濁流で水量も数日間続いた雨で増えていた。遺体を見つけるのは難しく、多くの遺体は依然見つかっていない。遊覧船から落ちた遺体は既に数キロ流されているから、遺体の捜査は困難だ。6日現在、死亡が確認された韓国人は15人、行方不明者は11人だ。

韓国聯合ニュースによると、韓国側は船内の遺体を収容するために潜水夫を潜らせたい意向だったが、ハンガリー側は潜水夫の危険性を指摘して、クレーンで遊覧船の引き上げを優先する考えという。幸い、水深は3メートルから5メートルだから、引き上げは可能だ。事故現場の状況については「流れが速く、ダイバーが水中で活動できる安定的な環境が全く保障されていない。船やヘリコプターで捜索作業を続けながらその範囲を拡大している」という。

韓国人の船の事故といえば、2014年4月16日、仁川から済州島に向かっていた旅客船「セウォル号」が沈没し、約300人が犠牲となった大事故を思い出す。船長ら乗組員が沈没する2時間前にボートで脱出する一方、船客に対し適切な救援活動を行わなかったことが判明し、遺族関係者ばかりか、国民をも怒らせた。

朴槿恵大統領(当時)が事故1年目の15年4月16日、死者、行方不明者の前に献花と焼香をするために事故現場の埠頭を訪れたが、遺族関係者などから焼香場を閉鎖され、焼香すらできずに戻っていった。犠牲者や行方不明者の関係者から「セウォル号を早く引き揚げろ」といった叫びが事故現場から去る大統領の背中に向かって投げつけられた。

ハンガリーではそのようなことはなかった。韓国紙セゲイルボによると、ブタペスト市民は事故で亡くなった韓国人のために橋の上に花を捧げ、慰霊した。また、ドナウ川に追悼に訪れた1000人余りのハンガリー人が事故現場付近の橋の上で長い行列を作って「アーリラン、アーリラン、アーラーリーヨー、アーリラン、コーゲーロー、ノーモカンダ」と声を限りに歌ったという。だから、ハンガリー国民が示す慰霊の姿に感動した韓国人記者は「ドナウ川は今も青く美しい」と書いたのだろう。

ちなみに、現在のドナウ川は水質汚染、化学汚染などが明らかになっている。そのため、ドナウ川保全国際委員会(ICPDR)は6月29日を「ドナウ川の日」と指定し、川の保護を訴えている。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月8日の記事に一部加筆。