中国共産党の国連支配を阻止せよ

長谷川 良

中国公安部国家麻薬監視委員会副長官の曽偉雄氏(61、Andy Tsang)が国連薬物犯罪事務所(UNODC)の次期事務局長の有力候補に挙げられている。曽偉雄氏は2011年1月から2015年5月まで香港警察長官だったことで名前が知られている。

香港の警察長官時代、2014年の反政府デモ(雨傘運動)の取り締りで、強硬な警察力を行使し、平和的に行われたデモに対し催涙ガスなどを投入するなどを躊躇しなかった。世界の人権団体から批判の声が出た一方、北京からは称賛の声が聞かれた。同氏が香港警察長官時代、犯罪総件数は1997年以来最低を記録したという。その体験を国連の機関にも役立てたいというわけだろう。

▲UNODC次期事務局長候補者の孟偉雄氏(サウス・チャイナ・モーニングポスト紙2019年6月5日電子版から)

▲UNODC次期事務局長候補者の孟偉雄氏(サウス・チャイナ・モーニングポスト紙2019年6月5日電子版から)

「サウス・チャイナ・モーニングポスト紙」(SCMP)」6月5日電子版によると、曽偉雄氏は先月末、中国国家麻薬統制委員会副議長の立場でUNODCを訪問し、ロシア、英国、オーストラリア、日本、韓国、タイ、南アフリカなどと2カ国会合を積極的に行っている。UNODCポストには中国人のほか、パナマとコロンビアが意欲を示している。最終的決定はニューヨークで決まる。現事務局長ロシア人のユーリ・フェドートフ氏の後継者を、アントニオ・グテーレス国連事務総長が5カ国の安保理常任理事国と協議して選ぶ予定だという。

ちなみに、UNODCは1997年に設立され、持続可能な開発と人間の安全保障を確保する観点から、不正薬物,犯罪,国際テロリズムの問題に包括的に取り組むことを目的に設立された。

同年、国連薬物統制計画(1990年国連総会決議により設立)及び犯罪防止刑事司法計画(1991年同決議で設立)を統合し、国連薬物統制犯罪防止事務所(UNODCCP)が設立された後、2002年に改称して現在のUNODCとなった。UNODCの職員はおよそ1500人で、世界の50の現地事務所やニューヨークとブリュッセルの連絡事務所のネットワークを通して働いている(国連広報部)。

中国共産党員の曽偉雄氏のUNODC事務局長選出には強い懸念がある。思い出してほしい。国際刑事警察機構(本部リヨン、ICPO)の総裁に2016年11月に就任していた孟宏偉氏(65、Meng Hongwei)が昨年10月7日付けで突然辞任した。その辞任理由は明確ではない。孟宏偉氏が北京当局によって一方的に強制帰国させられたのだ。

国際世論の圧力もあって中国側は後日、孟宏偉総裁が党中央規律検査委員会、国家監察委員会によって取り調べ対象となっていることを明らかにした。2019年3月27日、中央規律検査委員会は収賄や職権乱用を含む違反行為を行ったとして孟総裁を公職から追放し、党籍剥奪の上で刑事訴追することを発表した。

孟宏偉総裁が就任した直後、世界の人権団体は中国共産党がインタポールを悪用する危険性があると警告を発したが、同じことがUNODCでの中国人事務局長選出にもいえる。UNODCはインタポールより大きな組織であり、その権限は広範囲に及ぶ。

今月はローマに本部を置く国連食糧農業機関(FAO)の第41会期(6月22日~29日)でジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ現事務局長(ブラジル出身)の後継者の選出が実施される。

ローマからの情報によると、次期事務局長候補では欧州連合(EU)の支持を得ているフランス人の元欧州食品安全機関(EFSA)の事務局長だったカテリーネ・ジャラン・ラネェール女史(55)と、中国の屈冬玉農業次官(56)の2人が頭一つ先行している。元EFSA事務局長で農耕学エンジニアのジャラン・ラネェール女史はEUの統一候補者として出馬し、FAO最初の女性事務局長を狙っているが、イタリアがここにきて中国人の屈冬玉農業次官を支援する動きを見せている。

FAOで中国人候補者、屈冬玉農業次官が勝利し、UNODCで中国人の曽偉雄氏が任命された場合、国連機関のトップに国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長とジュネーブに本部を置く国際電気通信連合(ITU)の趙厚麟事務総局長を入れて4人となり、国連機関での中国人の影響が一層拡大する。

中国共産党出身の国連トップが問題なのは、国連全体、加盟国のために奉仕するのではなく、中国共産党の利益を最優先するからだ。UNIDOの李勇事務局長の昨今の言動はそれを端的に証明している。

中国は共産党一党独裁国であり、人権蹂躙、言論・表現の自由はなく、信教の弾圧などが日常茶飯事に行われている国だ。その国出身の共産党官僚が国連の、それも犯罪麻薬取締を担当する機関トップに就任すれば、国連はもう終わりだ。天安門広場事件(1989年6月4日)から今月で30年目を迎えたが、国連人権理事会は中国共産党政権の民主化デモへの弾圧に対して沈黙している。国連機関に世界の紛争、平和の調停役を期待することはもう止めるべきだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月10日の記事に一部加筆。