日産自動車の定時株主総会(2019年6月25日開催予定)に上程される「指名委員会等設置会社への移行に関する議案」(定款の一部変更に関する議案)について、大株主であるルノーが議決権行使を棄権する予定であることが報じられています。
この報道に対して、私は当初「いくらルノーが日産の43%の株式を保有しているとしても、9分の2さえ確保できれば議案が通るんだから、そんなに大きな問題ではないのでは?」と考えておりました(定足数1/3×賛成2/3=2/9)。しかし(念のため)日産の定款を確認したところ、特別決議を通す際に、定足数を1/3まで緩和する規定が存在しないことに気づきました。
多くの会社の定款では、総会における特別決議の定足数緩和規定が盛り込まれておりますが(たとえば日産車体、日産化学でも当然入っています)、日産自動車の定款ではなぜか除外されています(いつからでしょうか?)。普通決議の定足数排除規定は存在しますが、これは特別決議には援用できないので、たしかに日産にとって「ルノーによる議決権行使の棄権」は定款変更議案を通すには苦しいところかと。
日産の機関形態の変更にルノーが反対する理由は、指名、報酬、監査の各委員会にルノーから派遣される社外取締役の方々を就任させる予定がないから、ということのようです。しかし、7名もの独立社外取締役候補者が選任される予定なので、日産自身が「誰を指名委員会委員にする予定である」と今から宣言することは、明らかにガバナンス改革の趣旨に矛盾することになります(この点は、委任状争奪戦に向けて「(代表取締役ではなく)代表執行役は誰がふさわしい」と会社側、株主側であらかじめ宣言しているLIXILグループの事例とは異なるところです)。
また、ルノーは日産の主要株主ですから、主要株主の業務執行者が日産の指名、報酬、監査委員を務めることは、その職務執行に利益相反のおそれが高いものと思われます。したがって、日産がルノーの要求を拒絶することにもそれなりの理由があると考えられます。
一方のルノーにとっても、サンケイビジネスニュースが報じるように、日産の取締役選任議案に対する賛成協定(ルノーは日産が上程する取締役選任議案に賛成する義務を負う)が存在するとなれば、指名委員会等設置会社への移行は「総議決権の43%保有」という有利な立場を減殺してしまうことになりかねません。賛成協定が存在するかぎり、指名委員会さえ日産側が押さえておけば大株主といえども取締役会も、各委員会も、そして執行役も日産側がコントロールできる可能性が高いと思われます。
「独立社外取締役といっても、どうせ日産側にカタをもつ人たちの集まりだろう」とルノーが判断するのも不自然ではないでしょう。「議決権行使の棄権」は未だ確定しておらず、両社の間で協議が続くものと思いますが、どのあたりで落ち着くのか興味は尽きません。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。