来年1月に行われる台湾総統選挙の候補者選びで、民進党は13日午後に下記の世論調査結果を公表し、現職の蔡英文を候補とすることに決定した。正式指名は19日に行われる。
民進党候補 | 韓國瑜 | 柯文哲 | |
蔡英文の場合 | 35.768% | 24.5129% | 22.7002% |
賴清德の場合 | 27.843% | 23.4740% | 27.3804% |
調査は10日から3日間、固定電話と携帯電話それぞれ50%の割合で行われ、固定電話8,056件、携帯電話7,995件、合計16,051件の有効回答を得たとされる。
昨年11月の統一地方選挙で大敗した民進党蔡英文総統だが、本年1月に中国の習近平主席が「同胞に告げる書」で一国二制度に言及したことに対し、蔡総統が即座に反発したことなどで、それまで後塵を拝していた頼清徳前行政院長との差を詰め、最近の同党二人の調査では拮抗していた。
しかし国民党の韓国瑜高雄市長や郭台銘氏、そして無所属の柯文哲台北市長らとの組み合わせによる世論調査では、蔡英文が候補の場合でも、また頼清徳が候補の場合でも、どちらも民進党候補が劣勢との結果が出ていたことはこれまで何度か本欄に書いた。が、今回は蔡英文が誰よりも高い支持を得た。
勝因について蔡陣営は、税制改革や先に成立した同性婚特別法などが評価されたとし、頼陣営は青年層への浸透不足を挙げた。蔡氏自身は、頼氏によって自身の問題点が判ったと感謝の念を示し、団結を呼び掛けた。頼氏も直ぐに蔡氏に電話して、支持を約束したことを明らかにした。
国民党の候補選びに出馬した韓国瑜高雄市長は、世論調査の回答者に民進党員やその支持者が多かった可能性を指摘し、あまり参考にならないとした。一方、未だ出馬表明をしていない柯文哲台北市長は蔡氏に対し「がんばれ」とメッセージを出した。郭台銘の反応は報道されていないが、5人が立候補した国民党の候補者選びの結果は7月16日の予定。
以上は台湾のマスコミ報道から引いたことだが、筆者はこの結果を、「中国が蔡英文を助けた」と評したい。民進党の候補者選びは当初4月に行われる予定だった。早過ぎる候補決定は国民党を利する、と筆者は感じた。が、世論調査方法などで揉め、2度延期された結果このタイミングになった。
巧まざる遅れだったと思う。が、怪我の功名になった。折しも天安門8964の30周年、西側メディアが中国の人権対応を改めて非難したところへ、9日には香港で犯罪者引渡法の改正に反対する100万人デモが起こり、習近平が1月に演説した一国二制度の化けの皮が剥げてしまった。
もし世論調査が10日間早ければまた違った結果になったように思う。国民党もこれまでの中国との距離感のままではいけなくなった。香港の騒ぎはますます大きくなるようだし、このツキに乗じて民進党が勝つ可能性が現時点では大きくなった。
この香港の法改正で標的になるのは、実質的には香港と台湾の反中国勢力だろう。蔡英文総統がいち早くデモ隊支持を打ち出したのは当然だ。これをきっかけに香港市民と台湾との連携が進むようなら、習近平の足元を掬う強力な原動力になり得る。自由と民主主義を謳歌する人々の絶大な支援が必要だ。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。