きのう東京で「年金返せデモ」が行われ、主催者発表で2000人が参加したようですが、このデモは何をしろというのでしょうか。ポスターを見ると「今まで払った年金保険料をすべて返せ」と主張しているようですが、これは政府にとってありがたい話です。年金財政は大幅な赤字、いいかえるともらえる年金は年金保険料より多いからです。
その収支を国民年金についてみてみましょう。年金保険料は月額1万6340円だから、40年間(480ヶ月)払うと、国民年金保険料の総額は
1万6340円×480ヶ月=784万3200円
になります。これに対して国民年金の支給額は月額6万4941円なので、
784万3200円÷6万4941円=120.7ヶ月
つまり約10年で元が取れます。65歳から国民年金を受け取り始めると、75歳でトントンになり、それ以降は長生きするほど得する設計です。厚生年金はもっと複雑ですが、おおむね5年で保険料を取り返せるので、70歳以上は長生きした人ほど得します。
日本人の平均寿命は約84歳だから、加入者は国民年金で10年分、厚生年金では15年分ぐらい得します。「人生100年」時代といわれますが、100歳まで生きると25年分以上も得するのです。今でも国民年金の未納率は4割近いのですが、彼らは年金をもらえないので損します。
「年金返せデモ」の参加者が年金保険料を返してもらったら、65歳になったとき後悔するでしょう。年金は払ったほうが得なのです。
国民年金の半分は税金なので払ったほうが得
そのトリックは、年金会計の赤字を税金で埋めていることにあります。長生きする人の得する分は、原則として現役世代の年金保険料でまかないますが、保険料だけでは足りないので、税金で穴埋めします。
国民年金保険料の半分は税金ですから、国民負担(税+社会保険料)は支給額より多いのです。では年金財政は破綻して、年金はもらえなくなるんでしょうか?
そんなことはありません。この厚労省の年金マンガもいうように、日本政府は将来もずっと年金を払い続けるので、年金財政は「100年安心」だと約束しています。その赤字を埋める最大の財源は消費税です。
払った年金よりもらう年金のほうが多いが、税金を合計すると、若い人ほど負担超過になるのです。国の会計でみると、これは年金特別会計が一般会計から借りていることになります。年金会計の「隠れ債務」は800兆円以上と、厚労省も認めています。
安倍政権は消費税の増税を2度も延期する一方、年金改革には手をつけなかったので、年金財政の赤字はどんどん広がっています。それが金融庁の「年金は2000万円足りない」という報告書を麻生さんが受け取らなかった理由でしょうが、報告書を拒否しても赤字がなくなるわけではありません。長期的にお年寄りと若者の負担の分配をどうするか、この機会に考え直したほうがいいと思います。