6月28-29日に大阪で開催されるG20において安倍首相は近年でも稀にみる難しい議長としてのかじ取りを求められるかもしれません。ご本人は経済の安倍から外交の安倍にシフトしてきた中、イランでは改めて外交の難しさを感じた直後だけに安倍首相の手腕への海外メディアの視線と評価が注目されます。
切り口の一つ目はトランプ大統領と習近平国家主席両名が参加する中で地政学的にもちょうど真ん中にある安倍首相の立ち位置であります。これはロシアのプーチン大統領からしても「平和条約締結は現在の日米関係を考えると難しい」と言わしめただけにポジションの置き方が問われます。
香港の民主化運動家たちも安倍首相がG20で何らかの言及をするのか、注目しています。アメリカ、カナダ、イギリスなどは香港民主化運動を進める市民へエールを送っておりますが、日本からは特に明白なボイスは上がってきていません。理由は中国への遠慮でありましょう。
昨年10月の安倍首相と習近平国家主席との会談で「日中関係が平常時に戻った」という認識を双方で交わし、それまでの潜在的な問題はスーッと消えました。カナダで盛り上がっていた南京虐殺問題も見事にその時を境に立ち消えとなり、現地でこぶしを振り上げていた議員らはそのはけ口の持って行き方に苦労していました。
日本だけを考えれば外交的には割と適温状態にあると言えます。アメリカと中国という二つの対立しあう両国とうまくやっているという意味です。当然ながらそれは外交的連鎖性からそれ以外の国々、例えば北朝鮮、韓国、ロシアといった国々が日本と大々的に対立しにくい状態にあるとも言えます。ただし、これは日本の立場であって、議長国である日本が世界の中でポジションを示すのは全く違う役割になるでしょう。
今回、もう一つの外交的話題はイランであります。G20の参加国において明白にイラン側に立てるのはロシアですが、トルコの出方は読みにくい気がします。トルコとイランの関係は一言で述べるならオスマン帝国とペルシャ帝国という二大大国の覇権争いという歴史を経て現在に於いては「ご都合主義」的なところがあり、本質的ではありません。一方、安倍首相とエルドアン大統領は悪くない関係であることからトルコが日本に「仲介役」を再度依頼する可能性がないとも言えません。
ところがG20の参加国の中はスンニ派のサウジや英米というイランと対立関係の国が主体であり、イランへの擁護や敵対関係のヒートアップに対するブレーキが利くかどうか、微妙なところに見えます。
このあたりのかじ取りは今、世界のどの国家元首でも難しいでしょう。安倍首相は今回のこの難しい国際関係の中、偶然にもその役割が回ってきた点において国際関係論者からすればラッキーだと考えるでしょう。一方でその結果次第では安倍首相の手腕を絶対的なものにするか、ぼろくそにこき下ろされるか、二者択一的なところもあります。
一つは共同声明が出せるのか、二つ目は米中の落としどころ、三つめが対イランの緊張緩和をボイスアウトできるかでしょう。どれもウルトラC並みの困難が伴いますが、好む好まざるにかかわらずの状況です。期待しましょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月21日の記事より転載させていただきました。