難しくなった起業、初期赤字にどう耐えるか?

ウーバーやリフトといったライドシェア企業は数多くの大口出資者を迎え入れ、上場を果たしていますが、今しばらく赤字経営が続くと見られています。理由は売り上げの8割近くが運転手の人件費であり、その残りだけでは開発費、マーケティング費用、あるいは管理を賄いきれないという構造的問題を抱えているためです。

(写真AC:編集部)

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売り上げがどれだけ伸びてもビジネスモデルが人件費主体であり、レバレッジが効かないため、相当の売上高と市場占有率を維持することが勝利の方程式となりますが、ライドシェアビジネスそのものは特段、最先端の技術を要するわけではなく、レッドオーシャン化し、競合との激しい戦いとなっています。

メルカリも同様に赤字から脱却できません。同社のアメリカ事業の独り立ちが事業モデルの成否の鍵とされます。アメリカでの1~3月の売り上げは1億ドルを超えてきたもののアメリカ事業の黒字化には月間売り上げが1億ドル必要とされ、計算上、あと3倍も売り上げを増やさねばなりません。

このような初期赤字が続くビジネス環境は必ずしも大手の最先端の事業に限ったものではありません。

例えば私どもで準備しているカナダの老人介護施設事業は当局からの要求水準が異様に高く、初期開発費用は当然ながら当初想定より大きく膨らんでいます。更にそのコスト増に対応するため、施設のサイズを大きくして想定売り上げを増やすことになりますから事業費はもっと膨らむというイタチごっこになっています。仮にこの施設が完成しても10年は赤字確定です。(事業赤字とキャッシュフローが違うところがミソでこれをうまく利用するのが不動産事業者の得手とするところです。)

ではそれでも私がこの事業を進める理由は何か、といえばこのハードルを乗り越えてしまうと追随者が来にくくなる、ということでしょう。新しいビジネスはブルーオーシャンを狙うことが必然でありますが、私はブルーx2という考えを持っています。つまり、ただ単にユニークだけならば時間差を経て必ず追随が来ます。しかし、2種類以上のユニークさがあると追随は相当難しくなります。

私がこの発想に気が付いたのは今から7~8年前に上場企業のスターマイカの水永会長にお会いした際、氏の事業が追随を許さない不動産事業モデルだということを聞いて刺激を受けたのです。当時の氏のビジネスは中古マンションを買ってリノベして賃貸しながらタイミングを見て高く売却するというモデルでした。それだけでは誰でもできそうですが、彼の場合はいっぺんに何十億円という資金を投じて投網のように物件を買い取る方式で圧倒的交渉力が価格支配力を生むということでした。

こう見るとブルーオーシャン成功には資金力が最大の武器か、と思われます。それは否定はしません。

例えば私は今、ある事業買収案件に仲介者としてかかわっていますが、買い手が購入を躊躇しているのはビジネスそのものが現時点でさほど儲かっていない中、自分が購入することで果たして儲けを生み出すことができるのか、という懸念であります。これはよくわかります。それは買い手の財布の大きさによるのです。もしも想定外の赤字になれば財布はすぐに底をつくでしょう。

「タダでも持って行け」というのは「タダほど高いものはない」ともいえるわけでリスク見合いの資金力を論じないまま最近の起業の話をするのは難しくなったのかもしれません。

一般に不振事業の買収と建て直しとは今までとは全く違う企業体や組織、営業体制といった根本を変えることにより生まれ変わります。永守氏の買収成功物語はここにキーがあるわけで買収に全資金を突っ込んであとは運を天に任せるだけではまずその買収は成功しないのであります。

私は日本はまだ買収はいけると思うのですが、北米での起業や買収は資金負担のハードルが相当あがったとみています。一つはあらゆる物価が想定を超えていること、特に人件費の上昇は厳しいと思います。日本のように少人数で回すという発想はありませんから、事業にはもろに影響が出てくるでしょう。もう一つは箱、つまりリテールといった店づくりのコストも異様に跳ね上がっています。

ラーメン屋一軒作るのに5千万円から1億円はかかる時代です。トロントにある日本食レストランは内装と設備だけで数億円かけているそうですが、それだけやって成功すればようやく顧客の囲い込みができるということのなのでしょう。

もちろん、パパスアンドママス(父ちゃんかぁちゃん事業)も健在ですが、ビジネスの基盤はずいぶん変わってきたというのが私の実感であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月24日の記事より転載させていただきました。