米朝首脳の交換親書と案外だった中朝首脳会談…その中身を探る

6月13日付のCNNは、金正恩委員長がトランプ大統領に送った親書についてトランプ氏が「10日に美しい内容の書簡を受け取った」ことを11日に明らかにしたとし、以下のように述べたと報じていた。

親書(をくれたこと)に感謝する。我々はたいへん良い関係にある。昨日の手紙でそれをいま確認できる。非常に前向きなるような何かが起きるだろうと思う。(拙訳)

同記事はまた米政府当局が、その親書が「誕生日祝い」で「金委員長が大統領の健康を祈念している」と述べた、とも書いている。従って、それは金委員長が何かの具体的な提案をしたような内容ではなく、自分の存在をアピールするためのリマインダーだった、と解するのが妥当だろう。

トランプ大統領の親書を読む金正恩氏(朝鮮中央通信より:編集部)

トランプ大統領としてもリマインダーを寄こした以上、金委員長が3度目の首脳会談を切望していると当然に受け取るだろう。それが上記の発言となり、朝鮮中央通信が23日に金氏が受け取ったと報じたトランプ氏から親書送達に繋がったはずだ。但し、双方ともその受領日に触れていない。

これもCNNの23日の報道だが、朝鮮中央通信がトランプ大統領からの親書について以下のように報じたと書いている。

朝鮮中央通信は、金委員長がその親書を読んで「その熱心な内容(serious content)を本気でじっくり考える(seriously contemplate)」、「並外れて勇気のあるトランプ大統領」に感謝する、と「素晴らしい内容だ、と満足しつつ」述べたと報じた。(拙訳)

24日の産経もポンペオ米国務長官が23日に、トランプ氏が金氏に送った親書が、朝鮮半島の非核化に向けた「北朝鮮との重要な話し合いを開始するための適切な基礎となることを期待する」とし、「親書を受け取った北朝鮮の発言をみる限り、再開の可能性は十分にあると考える」と述べたことを報じた。

だがトランプ大統領が金委員長に、例えば会談を求めるような、言質を取られかねないようなことを書いた親書など送るはずがなく、従来と変わらずに「北朝鮮には大いなる可能性がある。それを生かすも殺すも貴台の腹一つだ」といった趣旨のことを述べたに違いない、と筆者は思う。

朝鮮中央通信より:編集部

さて一方、18日の日本メディアは、習近平主席の北朝鮮訪問は17日に中国メディアに発表されたと新華社が伝えたことを報じた。20~21日の一泊二日とはまさに電撃的だ。が、潮匡人氏が「…何のためかよく分からない会談」(夕刊フジ)と評したように、前もって周到に計画されたものでないように思える。

金委員長がトランプ氏に書簡を出したので習氏が慌てて確認に行った節さえある。が、習主席の早期の公式訪朝をずっと金委員長は望んでいたし、あれだけの歓迎式典が短期間に準備できるとも思えない。とすると、かなり前から予定されていて、トランプ氏への書簡送達も習氏と相談づくのことかも知れぬ。中朝の舞台裏は全く闇の中だ。

筆者は習氏訪朝と聞いてすごく嫌な感じがした。折から香港では反中国の大規模デモがあり、28~29日のG20サミットでは人権問題や南シナ海問題などを含め針の筵に座らされる上、米中摩擦は更に苛烈になりつつある。そこで習氏が北朝鮮の核問題で起死回生を目論むのではないかと思ったのだ。

周知の通り中朝間には「中朝友好協力相互援助条約」がある。1961年に韓国で朴正煕がクーデター起こして政権を取った時、金日成が慌てて中ソと結んだ軍事同盟だ。ソ連とはその崩壊で解消になり今は中国のものだけが残っている。その第二条は次のような参戦条項、いわゆる「血の友誼」だ。

第二条  両締約国は、共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。

筆者の頭をよぎったのは、習氏が金氏に「北朝鮮はこの条約によって中国の核の傘の下にあるのだから、この際、核を放棄したらどうか」と説得するのではないか、ということだった。北が核を放棄する話を「嫌な感じ」とはちょっとおかしいのだが、実際に嫌な感じだった。

というのも、もし習氏がそれを土産に大阪に乗り込んで来たとしたら、香港問題はおろか米中摩擦の件も一瞬にして吹っ飛ぶほどのインパクトだ。もちろんそれは一時的なことで、中国の人権問題や知的財産盗取や補助金問題など、共産党体制に由来する覇権主義の根本問題の解決にはならないのだが…。

とはいえ、トランプ氏が中国トンビに油揚げをさらわれたと地団太踏むことや、世界中が習氏の行動を称賛せざるを得なくなるのは間違いない。が、その後の報道を見る限り、その種のサプライズはなかったようで、むしろ逆に、中国と習氏の北朝鮮と金氏への影響力はその程度か、と思わせるような内容だ。

韓国のハンギョレの報道によると会談での金委員長の発言は次のようだ。

過去1年間、朝鮮(北朝鮮)は情勢の緊張を緩和するために多くの措置を行ってきたが、関係国の積極的な支持を得られなかった。…忍耐を維持し、関係国が朝鮮側と向き合って互いの関心事を解決し、成果をあげることを望む。…中国の経済発展・民生改善の経験に学ぶ。・・朝鮮は、中国が朝鮮半島問題を解決する過程で重要な役割を果たしてきたことを高く評価する。引き続き中国と疎通を図って協力し、新しい進展を収めると共に、朝鮮半島の平和と安定を維持していく。

一方、習主席の発言はこのようだ。

北朝鮮の安保の懸念の解決に中国が積極的な役割を果たす。…朝鮮半島問題の政治的解決を支持する。朝鮮半島の非核化の実現に中国が積極的な役割を果たす。…北朝鮮の安保の懸念の解決に中国が力を添える。

但し、新華社の英語版は次のように習氏の発言を報じている。太字は筆者

Beijing and Pyongyang also agreed that a political settlement of the nuclear issue in the Korean Peninsula has been a popular aspiration and an inevitable trend, and that they need to continue to stick to peace talks so as to make even greater contributions to peace, stability and prosperity in the region and the wider world, said Xi.

-北京も平壌も、朝鮮半島の核問題の政治的解決は多くの者が切望している避けられない趨勢であり、そして、両国が地域とより広い世界の平和、安定と繁栄にさらに大きな貢献をするために和平協議に固執し続ける必要があることに同意した、と習氏は述べた。(拙訳)―

軍事同盟を結び、かつ経済面でも明らかに北朝鮮の生殺与奪の権を握っている中国の北朝鮮訪問が、「避けられない趨勢」である「朝鮮半島の非核化の実現に中国が積極的な役割を果たす」と述べながら、非核化の具体的なロードマップが示される訳でもなく、単に理念の表明の終わるとは何と情けないことか。

ところが筆者は不思議なことにこれを情けないと思いこそすれ、少しも残念なこととは感じないのだ。

何故かといえば、筆者の気持ちの中に、中国共産党一党独裁体制の崩壊願望が強くあって、その暁には北朝鮮の金王朝も崩壊し、台湾や香港も独立し、ウイグル・チベットの人権問題も解消し、韓国文政権も拠りどころを失い、万事が好ましく落着する、との思いが出来上がっているからと思う。

その日が一日も早く訪れることを望んでやまない。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。