日本は「資源・食料安全保障」を重視すべきではないか! --- 和田 慎市

トランプ大統領が日米安全保障条約について不公平だと不満を募らせたことで、政府機関はじめ各方面で議論が活発になっています。

「安全保障」というとすぐに軍事・国防面が連想されがちですが、実は戦争・紛争に巻き込まれる危険性よりも、もっと国民の生活に身近な安全保障問題があります。

唐突ですが92%、86%、62%は日本のある依存率を表しています。それぞれ何かわかるでしょうか?

答えはエネルギー海外依存率92%、輸入原油の中東への依存率86%、食料の海外依存率62%となります。

日本がエネルギー資源の多くを外国から輸入していることは国民周知の事実ですが、下のグラフのように他の主要国と比較しますと、資源大国ロシアは別にしても、アメリカ合衆国や中国のようなエネルギー大量消費国でも自給率はそれほど低くはなく、原油・天然ガスの産出がほとんどないドイツやイタリアと比較しても、日本の自給率の低さ(8%)がとびぬけていることがわかります。

そして現在エネルギーの中心である原油について、日本は消費の99.8%を海外に依存しており、そのうち何と86%を中東地域から輸入しているのです。つまり日本の輸入原油は8割以上がホルムズ海峡を通るタンカーによって運ばれてきているわけです。

先日トランプ大統領が「ホルムズ海峡を通過するタンカーの警護は輸入当事国が担うべきだ!」と、暗に日本にタンカー警護を要求したともとれる発言をしましたが、この発言は日本政府・国会議員・国民が、自国のエネルギー安全保障について真摯に向き合う良い機会を与えてくれたのではないでしょうか。

日本が直接戦争に巻き込まれなくても、中東地域で紛争が激化しホルムズ海峡が封鎖されてしまえば、原油の大半を輸入できなくなってしまうのです。約半年分の石油備蓄で多少は持ちこたえられますが、あくまでも暫定的な緊急措置であり、長期化すれば日本経済は壊滅状態となるでしょう。

イラン沖のホルムズ海峡で攻撃された日本のタンカー(イラン・イスラム共和国放送より:編集部)

ところで実際にホルムズ海峡が機雷封鎖された時、タンカー輸送への依存度が最も高い日本が除去費用だけ負担し、機雷除去作業をアメリカなどの同盟国に頼めるものでしょうか?

当然作業を拒否される可能性がありますし、多額の費用を払えば引き受ける国はあるかもしれませんが、いずれにしても同盟国間の信頼関係は揺らぐ事態になるかもしれません。また、トランプ大統領のような取引上手だったら、その後負い目のある日本に対し金銭要求がエスカレートしていくかもしれません。

このように私たちの豊かな生活が脅かされる危険はすぐそこにあるのです。

こういったリスクを考えれば、まず政府が早急にすべきことは、第1に、ホルムズ海峡の安全確保(ペルシア湾岸産油国との協力関係構築とタンカーの警護等)、次に原油輸入先の分散(東南アジア、メキシコ等の輸入割合を増やす)をはかり、並行して省エネ・効率化を進めていくことではないでしょうか。

次に、食料自給率についても他の主要国と比較してみます。

*日本は2017年度、韓国は2016年、スイスは2015年、それ以外の国は2013年の数値(資料:農林水産省「食料需給表」等)

新大陸の農業大国(アメリカなど)はともかく、日本は農業条件の良くないスイスよりも低く、韓国と並んで主要国最低レベルです。

食料の自給率が半分にも満たない(38%)というのは国家の危機的状況といえます。例えば、日本の食料主要輸入国で内戦やクーデターが勃発したり、干ばつなどで大凶作が起こったりすれば、急に食料が輸入できなくなる事態もあり得ます。

また長期的に見ても、発展途上国の人口増加や生活水準の向上により食料消費が急増し、地球規模で慢性的な食料不足となれば、日本のような自給率の低い国は食料輸出国やグローバル企業に足元を見られ、輸入食料に法外な金額を要求されかねません。

小麦の輸入船(右)と船から機械(左下)を使って吸い上げられる小麦(左上)=農水省サイトより:編集部

「安全保障」というと自衛隊の国外活動など軍事面ばかりに注目が集まりますが、エネルギーや食料をどこからどのように安定的に確保するかという「資源・食料安全保障」のほうが、国民にとってはより現実的な問題ではないでしょうか。

どの国家も本音では国益を第一に考えており、外交は駆け引きやハッタリ・騙し合いが渦巻く世界ですから、友好国・同盟国といえども常に良好な関係を保てるわけではありません。

先ほどの原油輸入対策だけではなく、今後日本国民の安全で豊かな生活を維持するためにも、国外的には偏りのない多角的なエネルギー・食料の確保を行うとともに、国内においては自然・再生エネルギ―へのシフトや、農業力を高める施策(新たな食料基地の建設、農業研究・開発への投資など)に地道に取組んでいく必要があると思います。

これは長い年月を要する根気のいる取組みであり、50年先、100年先の日本を見据えた長期的な戦略です。少なくとも資源・食料問題において、政府は目先のトラブルや損得に振り回されることなく腰を据えて取組んでほしいものです。

また、国民も政府任せにするのではなく、日本の低いエネルギー自給率・食料自給率を直視し、現在の繁栄が「砂上の楼閣」と同じであるという危機感をもち、各人が「資源・食料安全保障」について、具体策を積極的に提言していく必要があるのではないでしょうか。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言