西武信金に行政処分:これからの反社排除のあり方を考える

少し前になりますが、今年5月24日、金融庁(関東財務局)が西武信用金庫さんに対して業務改善命令を発出しましたね。改善命令の根拠理由としては、

反社会的勢力等との取引排除に向けた管理態勢が不十分である(一部の営業店幹部は、監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行している)、内部統制が機能していない(強い発言力を有する理事長に対して十分な牽制機能が発揮されておらず、反社会的勢力等との取引に懸念を抱いた監事及び監事会から理事長に対し、複数回にわたって書面で調査を要請したにもかかわらず、理事長は当該要請を拒否し、組織的な検証を怠っているなど、内部統制が機能していない)。

というものです。監査役(監事)から何度も指摘を受けていたにもかかわらず、不十分な調査の結果「監事の情報提供には対応しない」と理事長が決めたそうですが、これは一般の企業にとって他人事ではありません。

Wikipedia:編集部

多くの企業において「不祥事はあってはいけない」という気持ちが経営陣に強いと、どうしても社内調査にバイアスが発生してしまい、ごくごく狭い範囲で(つまり責任逃れを目的とした)調査で済まそうとして、そこで不正の疑惑が出てこなければ「調査をしたけどもわからなかった」という幕引きで一件落着にしてしまいます。西武信金さんのケースはその典型例と言えそうです。

この業務改善命令を受けて、6月28日に西武信金さんは改善報告書を提出しています。内容を拝見しましたが、どうも反社排除の取り組みとして「入口排除」が中心のようにお見受けしました。もちろん「入口排除」が重要であることはわかるのですが、昨今ますます「反社」かどうか見極めが困難になっていることや、従業員に対して副業や兼業を許容する企業が増えている現状からみて、入口で100%排除することは難しい、という前提で反社排除を検討すべきではないでしょうか。

つまり、どんなに「入口排除」をしてみたところで、反社会的勢力と取引をしてしまうことはある、だから今後は

①反社との取引の疑惑が生じたときに、どのような社内調査を行うのか

②そして反社の疑いが濃厚となったときに、これにどう対応するのか

といった、リスクが顕在化した場合の具体的な危機対応の在り方を明示すべきです。

もちろん、このような指針を明示することは、取締役(理事)や監査役(監事)の法的責任が問われやすくなるでしょうから、経営陣にとっては好ましいものではありませんが、そうでもしないと西武信金さんのような事例は「働き方改革」が企業社会に浸透する中でますます増えるものと思います。

企業の反社排除への取り組みの本気度を測るためには、このように「反社との取引は当社でも起こりうる。しかし起きたとき(起きたと疑われるとき)に当社はこのような断固とした対応をとる!」といった反社排除のスタンスが参考になると考えます。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。