商業捕鯨再開に沸くのは関係者だけ?

商業捕鯨の再開が始まりました。頭数制限を細かく行い、100年経っても数を維持できるので問題はないと発表されています。その再開の日には日本捕鯨協会が発行する「捕鯨新聞」の号外も配られていたようですが、市民の反応はいま一つだったような気がします。

Wikipedia:編集部

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この問題、なにかしっくりこないのですが、なぜでしょうか?

商業捕鯨再開は誰が求めていたのか、であります。少なくとも国民ではありません。捕鯨の漁業関係者でしょうか?多少はあるかもしれません。ですが、最大の引き金は国際捕鯨委員会で日本の主張が長年、全く受け入れられなかったことに対して論理性を欠いているとして昨年12月に脱退宣言、6月末にその効力発効となり、商業捕鯨が再開されたものであります。

ただ、この商業捕鯨、規模的には昨年までの調査捕鯨で637頭確保していましたが、今回の商業捕鯨では383頭にとどまっています。つまり、漁業関係者にとっても別においしい話ではありません。また、おいしさの点からすれば商業捕鯨によりニタリクジラが主力になりますが、においがきついとされています。

つまりこれだけを見れば無理をして国際捕鯨委員会から脱退する理由はあまりなかったように思えます。

ご承知の通り、世界ではイルカは愛玩動物のように思われ、水族館などでイルカショーなどを見たことがある方が大多数だと思います。一部の運動家からはそれすらとんでもない事実だ、と批判の声が上がります。一方、和歌山県ではイルカの追い込み漁があり、これを映画化し、アカデミー賞を受賞、世界的に日本への批判が高まりました。

実はイルカとクジラは同じなんです。違いはサイズだけで生物学的には全く同じ。厳密な定義はありませんが、だいたい4メートル前後を境にそれより大きいのがクジラでそれ以外がイルカになります。よってクジラの捕獲はイルカの捕獲と同様のものであり、一部の欧米人の運動家には絶対に許せない行動なのであります。

これに対して和歌山県の仁坂吉伸知事が当時、牛や豚は良くてなぜイルカはダメなのか、と反論しています。私はどちらの味方をするわけではないのですが、ちょっと説得力に欠ける気がします。牛、豚、鶏などは家畜でありますが、残念ながらイルカもクジラも家畜には入っていません。(というより魚類(除くコイ)や海にすむ哺乳類には家畜という発想がありません。)

この発想の根源は人間の種の保存から来ており、紀元前何千年も前から家畜の原点が始まっており、その後、ユダヤやキリスト教的にもOKになっています。よって文化の違いに宗教的お墨付きをしてしまったと言ってしまえばそれまでであり、仁坂知事の主張は多分、欧米的には理解を得られなかったと思います。

それならば例えば韓国で犬を食べる習慣がありますが、これを他国の人からしたらとんでもないことだと考えています。実際に先般の冬季オリンピックの際にこの問題が取り上げられたこともありました。

国際捕鯨委員会で日本の主張が長年、認められないことは残念ではありますが、脱退して大規模な商業捕獲をするわけでもなし、味覚的に価値があるクジラを獲るわけではないし、国民からは鯨肉ねぇ、という感じであります。では何のための脱退だったのか、今更ながら私にはよくわからないのであります。

この脱退はトランプ大統領がパリ条約やINF全廃条約を「やーめた!」という効果とまったく違います。ほとんど影響力がない脱退ではなかったでしょうか?

本日の日経のコラム「春秋」には韓国への半導体材料の規制強化と商業捕鯨に「溜飲が下がった」と並列で述べているのですが、個人的には全然意味合いが違うと感じています。

先日、バンクーバーに戻る飛行機の中で大間のマグロ漁のビデオを見たのですが、これも欧米人が見たら卒倒するような残酷さがあります。ある程度、マグロを引き上げたら電気ショックを与えてそれで浮き上がってきたところで銛で一突き、であります。日本の放映はこういうのは生々しいのにほぼ規制はかかりません。ましてやこんな放送を外国人が目にする飛行機のビデオにとりあげるのも無神経だなぁ、と思います。

一方で日本の馬肉文化はあまり指摘されていません。この馬肉用の馬もカナダあたりから仔馬を熊本あたりに輸出し、そこで育てて日本の馬肉として仕立てています。カナダの馬肉は品質が良いからです。でもカナダでは99%の人が日本人は馬肉を食べる、そしてそれがカナダから流れているなんていうことは知りません。

文化の違いを乗り越えるのは確かに難しく、いわゆるエキストリーム系のボイスが一般社会に浸透していくことがしばしば生じます。私からすればもうちょっと繊細さが必要なのだろうと思っています。つまり、けんかをするのではなく、うまく立ち回る要領の良さなのでしょう。

商業捕鯨に沸くのはやはり関係者だけな気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月3日の記事より転載させていただきました。