先日の拙稿で、山本太郎氏、れいわ新選組が特定枠を使って障害者のかたを擁立したことについて、筆者は山本氏が落選し、特定枠の障害者のかたが当選後に辞退して山本氏が復活当選する可能性を論じた。
さらにツイッターで、山本氏の選挙戦略を批判したところ、
予想通り、山本氏のポリコレ戦略に乗せられた支持者たちが、反発し、私の言論を封殺にかかってきたが、そんな中、ネット上で波紋が広がる重度障害者の擁立の是非をめぐり、乙武洋匡さんがnoteの有料コラムにて記事を書かれていた。
「重度障害者に国会議員が務まるのか」という疑問に、重度障害者の私が答えてみる。
さすがは乙武さんという内容だった。有料部分にまで詳しい言及はしないが、1点だけ述べさせてもらうと、乙武さんの結論は「務まる」というものだ。なぜ務まるかは、ぜひ読んでいただきたい。私も部分的には同意するところもある。
そして、私なりの同意できるところ、同意できないところについて、乙武さんのFacebookのコメント欄に下記の内容を書いたが、アゴラ向けに加筆した。
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乙武さんの考えのうち、一部同意なのは、野党議員や与党の行政職を兼任していない議員なら、テクノロジー導入等の工夫でやりようはあると感じるからだ。実際、東京・北区議会で2015年から1期つとめた「筆談ホステス」斉藤りえさんの受け入れ対応を見る限り、現行の選挙・議会制度、議場環境でもやりようによっては、なんとかできるものだと思うし、努力はすべきだと思う。
もちろん、そこに伴う人的・経済的コストは相応にかかるが、障害者の当事者が直接政策作りにタッチすることの価値を重視するという考えはある。そこも含めてあとは有権者の判断次第だ。
しかし「政治家」は議場での活動や街頭演説など、有権者がテレビで見聞きする仕事だけをやっているわけではない。
与党議員の場合、大臣、副大臣、政務官として政府の役職を務めることもある。あるいは自治体の首長も含めて、行政側に入った場合の政治家は、大震災等の緊急事態に時事刻々変わっていく中、まるで軍人のような意思決定をするという重責かつ過酷な任務もある。
実際、3.11に直面した民主党政権、あるいは近年の西日本豪雨災害等で対応に終われた旧知の国会議員たちの苦慮する姿を見て、その職務の凄みを痛感している。
なお、私は乙武さんが政治家になるべきと今でも思っているが、乙武さんが2016年、あのまま自民党から参院選で公認を得て出馬し、当選していたとしても、一定の経験を積めば、将来的には行政職はできたと思う。
もともと勉強されていて知識、見識があるだけでなく、子どもたちとサッカーに興じる姿や義足の訓練で奮戦する姿からして、身体体力も意外に高い。もちろん、有事の際の身の回りのサポートは必要にはなるが、そこも含めて与党政治家、首長はできると思うから、筆者は、乙武さんを「有資格者」と述べたわけだ。
実際、過去にもタレント時代の事故で車椅子の生活となった八代英太氏はその後、政界入り。科技庁政務次官(いまの副大臣)、郵政大臣を歴任した先例はある。
では、れいわ新選組はどうなのか。山本氏はAERAの先の取材に自民党との連立政権入りも一つの選択肢として述べた。いまの安倍政権ではないにせよ、本気で将来、政界の枠組みが変わった場合には与党入りを目指しているという気迫は感じる。その場合、舩後氏や木村氏のような重篤な障害者の方にそうした職務も務めさせるつもりがあるのか。山本太郎氏はそこも含めて説明責任はあるのではないか。
もう一つ、私が疑問なのは間接民主制の意義を置き去りにした議論になっている点だ。
山本太郎氏の支持者たちの私への反発を見ていると、「当事者が声をあげて直接国会にいくのだ!(キリッ)」と噛み付いてきるが、それではなんのために間接民主制があるのか?当事者を議会に送り出していくことを突き詰め、全ての議員が当事者ばかりでいいと言わんばかりの言説は、間接民主制の否定になりかねない。国民のネット投票による直接民主制の一部導入という理論上の考えはあるが、今は現実的でない。
現行の政治システムが間接民主制である以上、当事者と思いを十二分に共有する健常者や重篤でない障害者の政治家を通じて政策を実現していくという「今できるオプション」を、山本太郎はなぜ行使しなかったのか。
私からすれば所詮選挙戦略にしか見えない。少数派だから炎上マーケティングありきで、障害者が立候補すれば批判しづらいというポリコレを逆手に取った戦略が見え隠れするように思うからだ。だから私はれいわ新選組の擁立に違和感を拭えないし、彼らの議席確保に反対する理由だ。
それでも情勢調査の結果からすれば、山本氏の「煽り」に乗せられた人たちがきっと比例区で1〜2議席程度、れいわ新選組に与えてしまうのだろう。それはそれで国民の選択の結果で受け入れるが、私だって全国比例区の有権者の一人だから、山本氏の支持者たちが安倍晋三氏の首相としての適格性を問うのと同等に、選挙戦中は、公職の適格性を問う資格は参政権において保障されている。
ところがそれを社会一般の障害者差別やバリアフリー論に結びつけて筆者を非難する輩が出ている。このこと自体に、山本氏のマーケティングの罠に支持者らが見事にはまっていることへの危惧を感じる次第だ。
もっとも山本氏やブレーンの仕掛けた論争のネタに当方も結果的に関与していることには忸怩たる思いではあるが。
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」