日経新聞では連日、今年の6月総会に関する総括特集記事が掲載されています。会社側提案に(たとえ一つの議案でも)2割以上の反対票が投じられた上場会社が17%に及び、その影響力が増したそうですが、投資家が議決権行使の個別開示を行うようになり、さらに株式持ち合い比率が減少傾向にあり、これがモノ言う株主の影響力を増す原因となっている、と今年の株主総会の特徴を総括的に締めくくっています。
また、(日経さんにかぎらず)LIXILや日産、武田薬品等の株主総会等を参考にしながら、機関投資家が対象会社のコーポレートガバナンスにも関心を寄せるようになったと指摘されています。
ただ、7月5日(金)の日経「私見達見」で、シェアードリサーチ社の外国人会長さんが「海外投資家を満足させよ」と述べているところは、至極まっとうなご意見だったのでホッといたしました。機関投資家が知りたいのは事業戦略や成長の源泉など企業のコーポレート・ストーリーであり、何を作っていくらで売るのか、そしてどのようにもうけるのかといったビジネスモデルを丁寧に説明せよ、とのこと。
たしかに私自身が見聞きする海外投資家と社長との対話内容も、(今年こそガバナンスについて根掘り葉掘り質問を受けるだろう…と構えて臨んでも)会社を取り巻く経営環境と事業リスクへの対処、そして成長戦略ばかりに質問が集中します。
最近の一連の事例について新聞等で報じられているところからすると、ESG投資への流れから、株主との対話においても「リスクマネジメント能力やコーポレートガバナンス」への関心が高くなるようにも思えてきます(実際、先週のエントリーでもお伝えしたように、ガバナンスや企業の不正防止の講演に、たくさんの機関投資家の方がお見えになるのも事実です)。
しかし、現実は上記会長さんがおっしゃるとおりであり、IR担当者と経営トップがどれだけ自社の長所・短所をきちんと説明できるか、持続的成長のためのビジネス戦略を、どれだけ具体的に説明できるか、ということが依然として投資家との対話において重要だと思います。
ただ、だからといって、コーポレートガバナンスへの関心については、決して「機関投資家が軽視している」というわけではなく、もし情報開示に問題があれば、今度は厳しいガバナンス上の要求が出される、ということだと理解しています。
昨年のカリリオン社の倒産を契機に、いま英国では監査制度の大改革が進んでいますが、もし日本企業にも投資家への情報開示に問題が発生すれば、「今度やったら、役員はタダではすまない」ことを保証するようなガバナンスが求められるかもしれません。
海外機関投資家が日本企業に求めるガバナンスは、一度問題が発生すると「性悪説に基づく信頼作り」に傾斜するのではないか、第三者委員会による調査どころでは済まないのではないか、と予想しております。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。