アメリカがイラン核合意から離脱したのが2018年5月。それから1年強たち、イランのイライラは募り、7月1日にウランの貯蔵量を、7月7日にはウランの濃縮度を合意水準より引き上げるという声明を出しています。
もともとはトランプ大統領のイラン核合意離脱というサプライズ感のある発表がきっかけでした。その点では中国との貿易戦争と似た構図とも言えます。ただ、中国とは何らかの折り合いがつく可能性があるのは合意による米中のウィンウィンの関係が生まれるからです。イランの場合にはアメリカに譲歩した場合どんなメリットがあるのか、といえばかなり限定的です。合意による緩和経済制裁の解除で緊張感の緩和ぐらいでしょうか。そしてその解除にはとても厳しい条件が付くことになるのですが、イランが本当にそれを飲めるのでしょうか。
また、中国とアメリカはビジネスという観点からすれば双方向の行き来はありましたが、イランとアメリカはもともとが限定的な中でアメリカにとっても経済制裁を解除するメリットがどこにあるのか、見出しにくい気はします。つまりトリガー(きっかけ)がないところに今回の問題があります。
私が最近、折に触れて米中通商戦争よりイラン問題の方が深刻、と申し上げているのは解決策が取りにくいからであります。さらには米中通商戦争は当事者間だけですが、イランとの関係はイスラエルやサウジアラビアそしてイラン核合意しているほかの国々との関係もあり、切り口が多いという問題点もあります。
こう見るとアメリカは世界の警官を止めた、と言いながら実質的には仕切りたいという願望が見て取れ、私には「世界の裁判官」に変質化をしているように感じます。(警官ならば多数の兵士を投入する必要がありますが、裁くだけなら少人数で最大効果が期待できます。)
ではイラン。私は相当な反米体制を打ち出してくるとみています。今回の核濃度も5%程度まで引き上げるとしていますが、目先20%程度まで引き上げる準備はしてくるとみています。その場合、アメリカは追加制裁を行うわけですが、大統領選が目先にちらつき始めたトランプ大統領として当然ながら国民受けしやすい厳しい対策を打ち出してくることもほぼ想定できます。
これでは中東の不和を生み出し、予想しがたいテロや報復合戦すら起こりえる状況になります。原油価格や金(ゴールド)の価格上昇とともに世界経済へ冷や水を与えかねません。また、イラン核合意の残りの国、英、仏、独、ロ、中とアメリカとの対話も注目です。その中で英国とドイツはトップが実質不在ないし、影響力の低下が見えるので、フランスのマクロン大統領がアメリカとの交渉窓口に立つ重責を負うことになるでしょう。これはトランプ大統領の性格からするとパチンと切れてしまうこともありうるわけで相当慎重な対応が求められると思います。
イランはイスラムという宗教的背景の中で何を最大の価値とするのでしょうか?私はその宗教観を肯定し、家族や同じイスラムの人たちとの関係に力点を置くとみています。そこには「妥協」を許しにくい背景があるともいえます。よってイランと交渉で譲歩を引き出すのは至難の業であるかもしれません。唯一、トランプ大統領はある程度のところで自分なりの価値判断のもと、妥協をすることがあるのでそこをうまく引き出せるよう政権が誘導できれば良いと思っています。
イランとは今、争いをするのがよいとは個人的には思っていません。そしてイランが暴走列車であり、走り始めるととてもリスクが高いことが気になります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月9日の記事より転載させていただきました。