パウエルFRB議長が年2度ある下院の議会証言で「より緩和的方向なバイアス」を示唆し、7月30、31日に開催されるFOMCで利下げ期待を追認する形となりました。もともと、専門家の間では利下げ確率は100%でそれが25ベーシスポイントか、50なのかという議論が展開されていました。さすが50ポイントという期待度は10数%程度の少数派で25ポイントが妥当というところでしょう。
50ポイントも一気に下げるのはそれこそリーマンショックぐらいの大問題が生じた時ぐらいであり、今、景気が悪くないのに利下げするという行為自体が本質的にはおかしいのであります。では、なぜ、利下げしなくてはいけない情勢になったのかといえば2018年を通じて「上げ過ぎた」ということだろうと思います。パウエル議長はとにかく議長になってから「上げる」という行為に取りつかれていた時期があります。それこそ、バブルの崩壊を招いた日銀の三重野総裁を彷彿とさせるところもあります。
ただ、三重野さんには抑える人がいなかったのに対して、アメリカはトランプ大統領と市場が激しいボイスを上げました。ある意味、金融政策の独立と言われながらも監視体制はあり、否が応でもその批判が聞こえていたわけでFOMCで議決権がある人たちに対して一定の影響はあったのでしょう。
ところで観光シーズンを迎え、私のビジネスも繁忙期に入っており、マリーナやレンタカー事業は大忙しです。その中でレンタカーについてはこの2-3週間は顧客の7-8割がアメリカ人で占められる状況になっていますが、多くの顧客に「価格はカナダドル建て。だからUSに比べて3割近く安いと思ってほしい」というとまず100%嬉しそうな顔をしてOK、と言ってくれます。
一方、最近激減したのが日本人。どこに潜んでいるのか、というぐらい見えなくなりました。借りてくれる日本の方は比較的富裕層の方。かつて、多くの日本人の若者でにぎわったのにどうしたのかな、と思っているのですが、想像するに物価についてこられないような気がしています。
今やカナダでもちょっとしたレストランに行けば一人5千-7千円ぐらいかかる時代です。日本の物価とは比較にならない状況です。ましてやホテルの部屋代などは言うのがはばかれるほどであります。
とすれば私が思うアメリカの利下げの意味とは雇用でもなく、物価でもなく、ひそかに為替調整機能を考えているのではないかと勘繰っています。例えば、利下げムードが醸成される中、カナダの経済指標はこの3カ月ほどは比較的強めで推移していることからCADはUSに対して強含みの展開が続いています。カナダ中銀は今月は利下げしないと見込まれることからアメリカとの金利差縮小で更にCAD高があってもおかしくありません。
同様に円もUSの物価に対して合わない状況になっているように見えます。本質的にはもっと円高になるべきなのでしょう。
もう一つ、米中の通商戦争の影も指摘されています。現在、休戦中で今後、大詰めの交渉になると思いますが、そろそろ決着がつく可能性もあり、その場合、急激にマインド改善になり、利下げではなく、利上げしたくなるバイアスすらあり得るかもしれません。
結局ここまで考えてみるとパウエル議長の指導力と市場の読み方が後追い型、つまり、本来であれば先を見越して先手を打たねばならないのにそれができていないとも言えます。個人的にはパウエル氏を指名したトランプ大統領にこそ、本質的な責任があるのかもしれないと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月11日の記事より転載させていただきました。