参院東京2019:選挙後を見据える維新、都ファ、自民の神経戦

新田 哲史

参院選も折り返しを過ぎ、この週末の情勢調査で大体の構図が見えてくるだろう。ここまでの情勢報道や、筆者が独自に入手した報道機関、政党の調査を見ると、東京選挙区(定数6)は、4人の現職に立憲新人の塩村文夏氏(元都議)の当選は確実な情勢。残り1枠を、立憲のもう一人の新人、山岸一生氏(元朝日新聞記者)と維新の新人、音喜多駿氏(元都議)で激しく争う展開になっている。

山岸氏と音喜多氏(編集部撮影)

都ファ新人都議の突然の音喜多氏応援が波紋

そうした中で、この最後のひと枠を巡り、「選挙戦後」の政治日程もにらみながら、参院選に不参戦の小池都知事と都民ファーストの会、あるいは官邸と自民党都連との間で複雑な思惑が交錯しているようだ。

先日、音喜多氏が杉並区内に入った際、地元選出の都民ファーストの会所属、茜ケ久保嘉代子(あかねがくぼ・かよこ)氏が応援に入ったことが政界関係者の間で波紋を広げた。言うまでもなく音喜多氏は小池氏と対立して都ファを離党。衆院選真っ只中の離党劇が希望の党(当時)の失速に追い討ちをかけた経緯から、音喜多氏と都ファ新人議員の「接近」は驚きを持って受け止められた。

茜ケ久保氏(HPより)

参院選について小池氏と都ファは不参戦の方針だ。関係者によると、特定の他党の候補者を応援する場合は、執行部に届ける手続きになっている。茜ケ久保氏がこの手続きをして、執行部が容認したのかは不明だが、確かに言えるのは、音喜多氏との関係が特に悪かったのは、小池氏とその側近である都ファ代表の荒木千陽都議、執行部入りした旧民主党出身の都議たち。小池塾出身の新人議員たちについては、執行部派の山田浩史氏(三鷹)のように犬猿の仲もいるものの、茜ケ久保氏のようにネットワークを維持している議員たちも少なくない。

小池氏と維新が共闘できる余地?

都ファの都議たちの関心は参院選後の政局だ。すなわち来年夏の都知事選、その1年後には自分たちの改選となる都議選を迎える。このまま小池都政の停滞・失速感が続けば、都知事選を現職のきねづかで乗り切ったとしても、組織力で自民、公明に劣る都議選は再びドミノ現象で、新人都議たちの多くが落選する可能性が高い。

しかし、小池氏の求心力が落ち、事実上の党の司令塔だった野田数氏も表舞台から去ったことで身動きが以前よりは取りやすくなったのだろう。生き残りを模索する新人都議たち(プラス先に離党した3人の都議も含め)にとっては、音喜多氏が当選して維新が首都に「橋頭堡」を築いた場合には、維新の勢力拡張というより、新しい政治勢力の結集に向けたシナリオが増えることへの期待があるとみられる。

小池氏と松井氏(ツイッターより)

また、小池氏にとっても、音喜多氏は東京選挙区の候補者では唯一、法人税収の地方配分を増やして都の税収を減らす「偏在是正措置」の見直しを掲げている点は一致する。維新・松井代表と小池氏の関係は先の衆院選の後も良好と言われており、「親分レベル」では政策的に“共闘”する余地はある。

とはいえ、小池氏自身は時事通信が指摘するように、都知事選までは自民を刺激せず、大人しくしていたいはず。都ファの執行部など「子分レベル」では、音喜多氏との関係は最悪なことに変わりはない。その意を汲むように前述の山田氏はツイッターで音喜多氏や柳ヶ瀬氏のネガティブキャンペーンを連日繰り広げている。

「改憲」なら立憲2人目?維新?自民、究極の選択

一方、親子レベルで利益相反がみられるのは自民党にとっても同じだ。茜ケ久保氏の音喜多氏応援が明らかになった直後にこんなやりとりがツイッターでみられた。

音喜多氏を支持するツイッターの応援者が「憲法改正を目指すなら立憲民主党の二人を勝たせていいのでしょうか?東京選挙区が改憲護憲で五分では憲法改正は進みませんよ!」とツイート。


これに気づいた、アゴラでおなじみの自民党の川松真一朗都議が「こういう根拠のない煽動には気を付けて下さい」と火消しに回っている場面がみられた。

また、安倍政権支持の保守論客で、小池氏、音喜多氏と敵対してきた有本香氏も音喜多氏を猛烈に批判し、そこに自民都連所属の菅原一秀衆議院議員が「悪い冗談過ぎますね」とツイートして応じる一幕もあった。「最前線」としては、小池都政躍進の担い手であった音喜多氏のことは目障りな仇敵であることに変わりはない。

官邸の思惑をめぐる疑心暗鬼

官邸サイト

ただこれも「親分レベル」となると、見方が異なるようだ。近畿地方の自民党国会議員は「官邸と維新の近さには困ったもの」とボヤいた上で、「維新が鈴木宗男氏を比例で擁立したのも官邸の意向が働いていた。それは鈴木氏に北方領土で頼りにしたいこともあるが、参院選後の憲法改正に向けた動きで維新にある程度の勢力はもたせたいのだろう。東京も立憲2人が当選するよりは音喜多氏の方がマシとみているはずだ」と指摘する。

にわかには信じがたい話だが、折しも静岡選挙区(定数2)では、最後の2人目をかけた国民の現職と立憲の新人の死闘に官邸が“介入”したと報じられた。前回は自民現職を支援した大手企業や業界団体の一部が今回、国民現職に支援に回っており、静岡新聞は、選挙後の改憲論議で国民の協力を見越した官邸の意向が働いている、との見方を伝える。現職陣営はこの報道を否定しているが、筆者もこれまでみてきた選挙戦において「敵の敵は味方」という動きを自民党は昔からすることは確かにある。

しかし、仮に静岡の「票回し」が事実であったしても、東京は様相が異なる。自民党内ではトップ当選を目指す丸川珠代氏の陣営は得票数の上積みに余念がなく、武見敬三氏の陣営は票固めに苦慮。自民党として改憲のための「第3候補」に票を回す余裕があるのか不透明だ。また、音喜多氏も憲法改正に前向きとはいえ、自民との遺恨は消えておらず、東京の維新も自民票を切り崩す力があるのか、この後の展開はどうなるのだろうか。

早ければ今夜遅くにも情勢報道が出てくるであろう参院選だが、選挙後をにらんだ「上層部」と血で血を洗う「最前線」との思惑が複雑に交錯しながら、終盤戦に突入しようとしている。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」