会社勤めをしていて嬉しい瞬間というものが存在します。お客さまに褒められたとき、大きな仕事を受注したときなどさまざまな出来事があるでしょう。
一番嬉しいのは、やはり社内で上司に評価されたときではないかと思います。とはいえ、どんなに嬉しいことや評価されることがあっても浮かれてはいけません。
事実、私が見てきた優秀な人たちは、評価されるべきポイントを抑えていて謙遜につとめていました。謙遜していれば人から反発を買うリスクは下げられます。ここで次の事例を紹介しましょう。
因幡君(仮名)は、コンサル会社に勤務する入社3年目の社員です。半年がかりの粘り強い提案によって、総合商社M商事から大型受注を受託します。その額は数億円の規模で、会社にとっても過去最大の受注となり社内でも話題になっていました。
さて、因幡君は社内に戻り、上司の生形部長(仮名)に報告します。早速、生形部長に連れられて真野社長(仮名)のもとに報告に行きます。社長は満面の笑みで「良くやったな」「頑張ったな、ありがとう」と握手を求めてきます。
因幡君も嬉しくて「マジで大変でした!」「寝ずに頑張ったので疲れました!」と率直な想いを吐露します。これが問題です。決してすごいアピールしたわけではありませんが、このような発言は逆効果になってしまうリスクがあります。
事実、真野社長はきびすをかえして、「では席に戻りたまえ」とそっけない態度になってしまいました。生形部長も厳しい表情をしています。なぜでしょうか。
まず、褒められたことで嬉しそうな素振りを見せるようであれば、人間の底が見えてしまいます。「こいつはこの程度で嬉しいんだな」と思われてしまうのです。
苦労話やアピールを話し出せば「そんな程度で満足しているんじゃない!」と思われてしまうでしょう。今回はまぐれ当たりだったのかなと思われても仕方ありません。
苦労話やアピールは確実に評価を下げていくので要注意です。このケースであれば、社長のみならず、社長のところに連れて行った部長の顔をも潰したことになります。これでは、大幅な評価アップは期待できません。
評価をあげる社員は、苦労話やアピールはしません。労いの言葉があったら「思いのほか苦戦してしまいました。時間をかけてしまったことお詫びいたします」。このように思慮深く謙遜するはずです。
謙遜できない社員のことを「ボンクラ」といいます。ボンクラは、漢字では「盆が暗い」と書きます。元々は丁半賭博で使われた賭博用語で、盆の中のサイコロを見通す能力に暗いこと。つまり、勝負に弱い人を揶揄する言葉だったといいます。
さて、14冊目となる『3行で人を動かす文章術』を上梓しました。正しい文章を書きたい人には役立つ内容ではないかと思います。
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)