週刊経営財務の7月15日号(3416号)に、野村総研の上級研究員の方の連載論稿「投資家が求める開示(シリーズ)」が掲載されていまして、毎回(といっても年に1回か2回程度ですが)取り上げるテーマがとても興味深く、いつも楽しみにしております。
昨年末、ACGA(アジア企業に投資する投資家団体)の国別ガバナンス達成度ランキングが発表されましたが、日本は2年前にはアジアで4位だったにもかかわらず、今回は7位に転落。その原因を探るべく、当該研究員の方も含めてワークショップを開催し、そこにACGA関係者の方もお招きして議論されたそうです。最終的な結論としては、
どんなに良い開示をして、KAMが導入されても、有報が株主総会後に出てくるのでは残念すぎる。それに有報がたとえ総会前に提出されたとしても、ギリギリのタイミングでは分厚い情報も活かされない。むずかしいかもしれないが、これができれば日本の開示は海外と比べても優れたものであるという評価は得られるかもしれない
とのこと。たしかに制度としては有報を総会前に提出することは、総会の時期を遅らせることも含めて「やろうと思えばできる」。しかし、実際には監査時期の問題や、期末日からあまり総会の時期を延ばしたくないといった事情から、企業自身が前向きではなく、また金商法監査と会社法監査の一元化が「縦割り省庁」の慣行などによって議論が進んでいない、といったところが現実ではないでしょうか。
ただ、今年の6月総会の特徴として、株主提案権の行使(可能性)を前提とした「株主との対話」が進みました。また、開示府令の改正によって有価証券報告書の非財務情報(記述情報)の充実や開示情報の信頼性、適時性確保に向けた取り組みが2020年3月期の有報から施行されることになりました。
そうなると、企業統治改革を「形式から実質へ」と深化させるための次の施策としては、この対話と非財務情報の開示を結びつけることに目が向けられることになります(これでようやく「担当者に丸投げ」でなく、CEOもしくはCFO自身が開示情報に責任を持つ状況が実現するかも・・・)。ということで、有報の総会前提出がACGAのランキング分析を待つまでもなくガバナンス改革の関心事になるのではないかと。
ところで、最近、上場会社のCEOやCFOの方々、そして機関投資家の方々と意見交換をする中で、日本企業が「株主との対話」に臨む際に大きなギャップ(認識における齟齬)があり、これは「企業統治改革を阻むミゾ」ではないか、という点に思い至りました(まだ仮説であり私案にすぎないので、今後の実務における検証作業が必要ですが・・・)。
ただ、海外における不祥事によって、日本企業が海外当局や集団訴訟で追い詰められるときにも同じ感覚を抱いておりまして、企業のレピュテーションを維持するためには乗り越えるべきミゾではないかと。またそのあたりの「分かり合えないミゾ」についてブログでも解説をしたいと思います。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。