相次ぐ中国人襲撃:一帯一路の問題点が凝縮、パキスタン現地報告

並木 宜史

一帯一路。その壮大な響きとは裏腹に、中国による中国のための経済開発計画ではないかと批判されることが多い。パキスタンにおいては「中パ経済回廊(CPEC)」の名で様々な開発計画が進められている。そのCPECの最前線がバローチスタン州という多くの問題を抱える地域である。

中国とパキスタンは1951年5月に正式な外交関係を結んでから、今年で68周年を迎えた(写真は並木氏提供)

バローチスタンとはイラン系少数民族バローチ人の土地を意味する。かつて現在のバローチスタンの領域内にカラート王国というイギリス領インド帝国を構成する半独立国家が存在した。1947年にインド・パキスタンが分離独立をすると、カラート王国はパキスタンへ一方的に編入された。建国以来、民族紛争の絶えない地域となった。中国が進出国政府を通じて少数民族を搾取するという、一帯一路の問題点が凝縮されたバローチスタンを訪れた。

パキスタン国民は一般的には親中とされる。大都市で住民に中国の印象を伺うと「同盟国」、「友人」といった、親中的な返答をもらう。一方で中国進出のしわ寄せが及ぶ地域の住民は心中穏やかではない。中国人への感情は特にバローチ人の間で悪化している。中国はバローチスタンの雇用と冨を生み出す要所を我が物にしているという印象からだ。

パキスタンの有名大学で灌漑・水利技術を修めたバローチ人エンジニアは、州内のダム事業において中国企業に便宜が図られていると明かした。中国は既にアフリカ進出においても批判されているように、労働者までも本国から連れてくる。ただでさえ雇用の少ない国パキスタンにおいて、地元で知見を活かせる仕事を中国人に奪われことは現地人にとって我慢のできないことである。それ故バローチスタン独立を目指すバローチスタン解放軍(BLA)のみならず、タリバン等イスラム過激派も中国人を狙った攻撃を繰り返している。

バローチスタンの州都はクエッタだ。かつて地元民にも有名な中国人居住区が存在した。2017年に中国語教師2名が誘拐され殺害される事件が発生した。これにより中国人はクエッタを去りカラチに移住するか本国へ帰国した。中国人に似ているだけで狙われるため、治安当局は北東アジア系の顔立ちをしている者の入域には神経質になっている。

クエッタはパキスタンからイランへの通じる唯一の経路であり、イラン入りを目指す外国人が通過する。当局は外国人に警官同伴無しの外出を禁じ、ホテルに軟禁状態に置く措置を取っている。バス会社は特にアジア系外国人の乗車を嫌う。中国人と似た容姿の者が乗っているとテロ攻撃を誘発するからだ。厄介払いをしたい当局が要請することでバス会社はしぶしぶアジア系乗客を受け入れている。中国人は周囲を敵に囲まれた状況の中、移動の際には必ず飛行機を利用するという。

バローチスタン南端の海港市グワダルはCPECの象徴的存在だ。中国はCPECの最終目標として新疆ウイグル自治区カシュガルからグワダルを繋ぐことを掲げている。パキスタンは中国企業にグワダル港の99ヵ年の租借権を認めた。中国は海外領の如く湾岸諸国への出口として開発を進め、パキスタン側はグワダルを南アジアのドバイにするという甘い夢を見ている。

グワダルの海岸の上空からの光景(Wikipediaより:編集部)

一方現地人にとっては中国の収奪の象徴であり、武装勢力に狙われている。4月18日未明、グワダル行きバスが武装集団に制止され、乗客のうち治安部隊関係者14人が殺害された。この事件を受けて多くのバス会社はグワダルへの運行を見合わせることになった。そのバスターミナル内でもグワダル行きのバス運行を継続している会社があり、グワダルを目指す多くの現地人でごった返していた。

グワダルで船舶関係の事業を営む男性は、同地を監獄と表現した。グワダルの住民以外は武装勢力に狙われる危険性があるため、現地人であっても自由な外出はできない。中国人は塀の中でまるで囚人のような暮らしをしている。こうした状況下でグワダルの警備に中国系民間軍事会社が参入している。中国人が自衛のためとはいえ住民を武力で威圧することは更なる反感を招く。そして厳重な警備の中でも攻撃は起きる。5月11日昼過ぎ、武装集団が高級ホテルに押し入り3人が射殺され、BLAが犯行声明を出した。民族解放闘争を国際的に周知するため効果的な攻撃であった。グワダルはドバイと形容するには程遠い現状である。

バローチスタン各地には豊富な埋蔵量の地下資源があり、中国はかねてよりその奪取を狙ってきた。バローチ人は中国による資源収奪の象徴としてリコーディック金銅山の名を挙げる。最初にゴールドハンター達が採掘に訪れ名が知れ渡り、1995年には連邦政府も開発に乗り出したが技術不足、資金難等の理由で頓挫した。2001年に連邦政府は中国冶金科工集団(中冶集団)という中国の国営企業に採掘権を与え開発が進むことになった。収入配分割合は、中冶集団が50%、連邦政府が48%、そして地元には僅か2%という不公平なものであった。

地元のNGO代表は中国による開発は何ら利益をもたらすことはなかったと指摘する。バローチ人はこうした中国のやりたい放題を座視していない。クエッタ郊外にはクロム鉱山があり、多くの利益と雇用を地元にもたらしている。中国も食指を伸ばしているかと思いきや中国企業の進出は聞かない。現地野党関係者によれば、地元政府が中国企業の操業を許可していないのがその理由だ。中国が連邦政府に民族政党勢力の弾圧を要請すれば、武装勢力を勢いづかせることになり現地の情勢は益々悪化する。

並木 宜史(なみき のりふみ)フリージャーナリスト
1992年、東京都生まれ。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の現地取材を続ける。6月22日放送、NHK ETV特集「バリバイ一家の願い~“クルド難民”家族の12年~」にて、トルコのクルド人の状況について監修。