今のところは「静観」かな
「よしもと」を批判できるのか?
一連のニュースを受けてそう思ってしまったのが、率直なところだ。実際のところ、内部の事情はわからない。社長や会長が権威主義的な部分は程度の問題でもあり、その一言だけで判断はできない。発言の前後の文脈や人間関係を丁寧に追わないと実のところわからない。
「テレビ局が株主だから大丈夫」発言にしてもメディアとの関係性で公共的だとは思えないが、当事者間でのマウンティング(交渉優位のための強弁)にも思える。
そもそも、今回は所属タレントの「直」営業での問題が発端である。よしもとが関知しない領域のことだ。「狂犬」とかって呼ばれたタレントによる幹部に対して辞任を要求するという動きもある。
しかし、社員じゃない人(所属タレントとはいえ口頭の契約先)から辞任圧力を受ける会社も普通のことではない。芸能の裏と表に詳しい知り合いは「浪花の芝居小屋のゴタゴタ劇」とも言う。
・タレントは「社員」ではない
・今回の事象は、業務全体の中の1つの事案なので、一事が万事というのはフェアではない
・あれだけの大企業、社内の「権威主義」は複雑な権力構造の中にあるはず
・まずは、ガバナンスは株主に考えてもらうべき
・そもそも宮迫氏らの「直営業」は会社の責任範囲外で起きたこと
という点で非上場の会社の社会的責任を問うのはなかなか難しい。郷原弁護士が言うように「下請法違反」の面はあるだろう。仕事をして「1円」の仕事とか、最低賃金以下である。お笑い芸人がテレビで「ネタ」としてしゃべってはいたが、やはりほんとのようだ。その点のコンプライアンスの問題はある。
しかし、思惑が入り混じり、あまりに判断するのには情報不足なので、個人的には当面「静観」したいところ。7月上旬のよしもとの幹部もそんな気持ちだったのかもしれない。
SDGs事業の受託者というのはブラックジョーク?
それより問題として着目すべきなのは、SDGs事業の推進者である点である。
SDGsとは….
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標のこと。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されており,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っているもの。
というもの。
具体的にはこの映像を見てもらえればと思う。
吉本興業は、「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞するほど、代表的な企業でもある。
所属タレントがSDGsの啓発関連のお仕事をしていることも、また事実である。タレントが出ているポスターの端っこにSDGsのマークを見たことのある方も多いだろう。
唖然とする国連の発言…
しかし、よしもと芸人のSDGs啓発での発言を聞いたことが数多くある。厳しいいい方ではあるが、専門家の私から見て「わかってないのちゃうん?(もっと勉強せなあかんで)」と思ったほど、聞くに堪えられなかった経験がある。
M1や二丁目劇場でのネタのように作りこまれていないし、勉強が不十分という印象。SDGsの推進主体でもあるのは国連だ。依頼主がその程度でOKなら仕方ないのかもしれない。
しかし、国連は今回驚くべき態度をとった。国連広報センターは「今後も同社との連携は続ける」との意向を示し、センターの所長は「ピンチをチャンスに変えて、より良い、より強い会社になってほしい」(ハフポスト日本版)と発言したそうだ。
ほんま、意味わからん。
この段階でそのように発言すること自体、いかがなものかと思う。普通「SDGsの理念を踏まえ、精査します」と回答するのが普通だろう。いきなりそう断言してしまうのだから、開いた口が塞がらない。推進する主体者なのにSDGsの理念に忠実ではない。それどころか、企業の行動に対して疑いもしない。これでは理念が広まらないのもわかる(悲しいけど)。
SDGs事業をみなさん学びましょう
話を戻して、よしもとについて。
確かに、お笑いを活用して、コミュニケーションや盛り上げに大変活躍するのがよしもとの総合力だ。筆者も桜 稲垣早希さん、デニスさんらと共演したこともあるのでわかる。デニスの植野行雄さんとの掛け合いで「俺の方がうけたで」と思ったのは一瞬であって、ほぼ彼らの話術の凄さに圧倒される時間となった。タレントさんやマネージャーさんにはリスペクトしか感じなかった。
しかも、クオリティの割に契約金額がとても安い。その意味で、とてもメリットが多く、使いやすいし、私が選定する側の担当者、連携する先の担当者だったら選んでしまうだろう。
しかし、SDGsは単なるエコ啓発の事業とかではない。本質は
「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現
である。SDGsは持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる、国連の開発目標から構成される。その中のグローバル目標には
⽬標 8. 包摂的かつ持続可能な経済成⻑及びすべての⼈々の完全かつ⽣産的な雇⽤と働きがいのある⼈間らしい雇⽤(ディーセント・ワーク)を促進する
⽬標 10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
といったものがある。大崎会長曰く「毎年6000人の芸人には教育をしている」(ビジネスインサイダー誌)そうだが、SDGsの本質を徹底的に理解させているのだろうか。
啓発面での評価は異常に高いのは認めるが、「SDGsを涵養している企業」として対外的に認められることに対して、疑問に思わなかったのだろうか。その自己認識の甘さが今回の騒動を招いたともいえる。自分の企業を客観的にみたら普通なら辞退するのが経営者として妥当な判断だと思う。
今回の事件、反社会勢力との付き合いで、イリエコネクション代表に端を発する問題の「連帯責任」を取るべき!と主張しているわけではない。とりあえず契約関係の見直しとSDGsの研修から始めて欲しい。
世界に誇るエンターテイメント企業としての「プロ根性で乗り越えましょう」。お笑いのチカラで新たな文化の創造を担っていただくことを今後も期待したい。
西村 健 日本公共利益研究所 代表・主席研究員