韓国への通商措置に違和感:正々堂々たる制裁を

八幡 和郎

韓国に対する輸出管理厳格化措置について、私は反対ではないが、疑問はもっている。

24日、スイスのジュネーブで開かれたWTOの一般理事会の様子(ANNニュースより:編集部)

そもそも、この措置を徴用工問題についての韓国に対する制裁でないと政府はいっているが、措置の発表のころには、少なくともそういう印象を与えることを避けるべく努力したとはいえない。

むしろ、制裁をなにもしないという批判をかわす気持ちもあったように見える。もう少しきちんと、「これは徴用工問題と関係ない話であるが、徴用工問題に象徴されるように、文在寅政権が日本政府の問題提起や要求を真摯に受け止めることをしないことから生じたという意味では共通の背景がある。反省を求めたい」とでも明確に切り分けて説明すべきだったと思う。

いまは、無関係であることをことさらに強調しているが、最初の説明とはニュアンスという意味では少し違うのでないかという違和感がある。

私は、この措置はなにもWTO上の問題などないと思う。WTOも動かないと思う。また、韓国の極悪非道にはどんな制裁を課してもやり過ぎということもない。

しかし、優越的な地位にある国が外交交渉の道具にその力を使うというイメージを世界から持たれるのは、あまり賢いとは思わない。そういう意味で失うものがないわけではなく、稚拙感は否めない。

私は徴用工判決への対応策は、冷徹に本当に韓国が困ることをすべきだと主張してきた。

昨年に刊行した「韓国と日本がわかる 最強の韓国史」(扶桑社新書)などで5つの措置を提案してきた

①日本人が半島に残した個人財産への補償を要求

②対北朝鮮経済協力の拒否(統一時も含む)

③三代目以降に特別永住者の地位を認めない事

④歴史教科書における近隣国条項を韓国に限って撤回

⑤韓国大衆文化の流入制限

こういうのこそ、徴用工判決に対抗するのはふさわしい。また、差押物件を本当に換金したら、韓国企業や韓国人からその分の金を取り上げる手立てだってないわけでない。日本にある韓国企業や韓国国籍のものの財産に特別税でもかけたっていい。

一方、visaをとめて観光客を止めるなどというのは、愚の骨頂。いまや西日本の経済は中国や韓国の観光客なしでは成り立たない。それを止めるなどノイローゼの末の自傷行為みたいなものだ。

日本政府は東京一極集中を促進して西日本経済をガタガタにした。しかも、それを反省しているようにも思っていない。ならば、西日本経済を支えるのは中国や韓国だというのが現実だ。

彼らによる不動産取得だって、東京との不動産価格の差の拡大を止めてくれるのは彼らしかなく、京都の古い町並みに価値を認めて投資してくれるのも彼らだ。移民は善し悪しだが、人口減少よりは、金持ちの中国人や韓国人でも来ないよりましだ。2017年に大阪難波の高島屋の売り上げは69年ぶりに東京日本橋店を抜いた。

今回の措置も打撃を受けるのは関西の企業が多いようだ。いいかげんに東京は自分たちの懐は痛めないで、西日本の犠牲で何かをするのはやめてほしい。

繰り返し書くが、今回の措置に不当性はなにもない。しかし、ほかにやることもあるのに、いきなり劇薬、それも通商分野で発動した真意は私もよく分からない。

日産の問題でも、経済産業省が裏で糸を引いたという噂も絶えない。もしそうだとすれば、外国人株主の権利を害することを汚い手でやったということであって産業政策の汚点であろう。

今回のことも含めて、かつて通産省が世界から「ノートリアスMITI」といわれたことの政策のうち、前向きな産業育成策は再現しないまま、窮余の一策としてときに発動した奥の手のようなものばかり再現するのも、ちょっと頑張るところが違うのでないかという印象は免れないのである。


八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授