吉本を辞めるという発言は不適切!水面下で解決すべき事案

反社会的組織の宴会に参加して謹慎処分を受けた、宮迫博之氏と田村亮氏の2人の記者会見を受けて、7月22日に吉本興業の岡本社長が会見を行いました。しかし、発言の不合理さが指摘され芸人が蜂起するさわぎになっています。

NHKニュースより:編集部

まずは、蜂起したいくつかの例を見ていきましょう。ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんはツイッターで「若手芸人ファースト」を掲げます。後輩達の処遇の判断を優先してほしいことや、蓄えがありしばらくの間は生活していける先輩達とは違い、後輩達はその日の収入があるかないかは死活問題であると思いますと処遇の改善を訴えました。

極楽とんぼの加藤浩次さんは、経営陣が刷新されなければ、所属する吉本興業を辞めることを明言しました。その後、大崎洋会長との話し合いについて「平行線のまま」「合致点がなかなか見つからない」として、退社は一旦保留となっています。

今回の論点がズレてきている件

元々は、宮迫さんと田村(亮)さんの反社会的勢力の宴会に参加してギャラをもらっていたことが問題だったはずです。それが処遇改善や契約の問題に派生していますので、それらは別問題だとすみわけをする必要があると思います。

今回、(あえて名前は出しませんが)吉本興業の関係者に話を聞きますと、「吉本興業はチャンスを振るのでやり方次第では大きく成長できる会社なんです。縁を大切にするので気に入れば支援もするし仕事も振る」といいます。感情的になるのではなく吉本興業のステータスで仕事をしていることや、感謝を考えるべきではないかと思います。

筆者は、人事コンサルタントとして制度設計や評価に携わっていました。その視点で申し上げるなら、評価において理由もなく処遇を変えることは考えられません。相応の原資をもってきてそれをベースに処遇改善を主張するなら検討の余地はあるかもしれませんが、現状は不満でしかありませんので正当性がありません。

また、上層部の一部が決めているという批判がありますが会社とはそういうものです。社長を頂点としたピラミッドが形成されて、ピラミッドの間に役職による階層が生じますが、すべての階層に共通した情報や権限が与えられることはありません。

なかには、「退社」を口にされている方がいますが、人事評価で申し上げるなら「レベル1」です。会社組織への影響をまったく考えていない不適切な発言です。社内を扇動して混乱を引き起こしているだけです。レベルの高い人は、不満を口にするのではなく、どうやったら不満を解決できるのかという視点で動くはずです。

あなたが社長の立場だとします。部下が「オレは社長に直談判する。社長が辞めないならオレは退社する。もう覚悟はできてる」と多方面で吹聴していたらどう思うでしょうか。この時点で、社長の名誉や体裁、世間からの評価はどうなるのでしょうか。

不満をもつ人はこの機会に独立されてはいかがかと思います。力があれば、稼ぐこともできますし、希望通りの環境が実現できます。分社化の意見もありますが、指示命令系統は吉本興業なので大勢は変わりません。静観したほうが懸命といえるのではないでしょうか。会社への感謝を忘れてはいけません。

なお、マネジメントの観点で考えれば、社長を矢面に立たせたことも好ましくありません。本来なら、矢面に立たせる前に、水面下で解決すべきだったように思います。

今後の「契約」の方向性

しかし、問題点も明らかになっています。吉本興業は、芸人・タレントと契約書を交わしていません。「芸人、アーティスト、タレントとの契約は専属実演家契約。それを吉本興業の場合は口頭でやっている」と説明します。民法上は成立しますが、やはりトラブル等を避けるためにも契約内容、対価を明確にしておくべき必要性があると思われます。

現在は契約書を交わすこともなく、契約条件も、対価も明示されないまま「口頭での契約」で出演の仕事を行っているようです。これでは、不利な立場に置かれているとも言えます。業界全般の慣習ともいえますが、この機会に解決すべき課題ともいえるでしょう。

尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)
14冊目となる著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を上梓しました。